エンジン車禁止に揺らぐ英国 「国民に不当な影響与える」環境政策、トーンダウンか

公開 : 2023.07.26 18:25

英国でのICE販売禁止は政府公約

政策変更の可能性を残すかのような発言を受けて、首相の公式報道官は、2030年にICE販売禁止を実施するという確約を求められた。報道官は英ザ・テレグラフ紙にこう語った。

「わたし達の約束に変わりはありません。首相から聞いたように、わたし達がしたいことは、このアプローチが相応かつ現実的で、国民に不当な影響を与えないようにすることです」

報道官や他の議員は政策変更の可能性を否定している。
報道官や他の議員は政策変更の可能性を否定している。

「それは、国民や企業が期待することだと思います。しかし、明らかに2030年アプローチはわたし達のコミットメントであることに変わりはありません」

さらに、政府はネットゼロ政策が「すべて」「相応で現実的なものであることを確認したいと考えており、現在取り組んでいる」と付け加えた。

2030年禁止令に対する「アストン マーティン免除」

政府はまた、ICE禁止に対する「アストン マーティン免除」を考えていると英タイムズ紙は報じている。これは、生産台数の少ない自動車メーカーにEVへの切り替え期間の猶予与えるためだ。

これに先立つ2月、欧州連合(EU)の立法機関は、これらの「ニッチ」メーカーが2035年の禁止(欧州の計画)後もEUでICE車を販売できる可能性があることを認めた。具体的には、年間登録台数が1000台未満のメーカーは、禁止令の対象外となる。

規模の小さい少量生産メーカーには、ICE禁止の緩和措置が講じられる可能性がある。
規模の小さい少量生産メーカーには、ICE禁止の緩和措置が講じられる可能性がある。

小規模メーカーの免除は英国政府も検討している。2月、運輸省の広報担当者はAUTOCARに対し、この免除が含まれる可能性を排除していないと語った。

リシ・スナク首相の発言に批判殺到

前述の首相の発言は、自動車業界の一部から批判を集めている。

英国の充電設備事業者を代表する団体ChargeUKは、ZEV(ゼロ・エミッション車)政策の一環として、「英国全土にEVインフラを前例のないスピードで展開するために60億ポンド(約1兆円)以上を投入した」と述べた。

EV普及に向け、英国内の充電インフラ整備にはすでに多大な投資が行われている。
EV普及に向け、英国内の充電インフラ整備にはすでに多大な投資が行われている。

これにより、「良質で持続可能な雇用が創出され、EVへの転換が支援されるとともに、排出ガスが削減され、すべての人のために大気質が改善された」という。

「もし政府が公約を守らなければ、この投資と市場におけるEVの供給が危険にさらされることになります」

「ChargeUKのメンバー企業はすでに、交通の電動化を支援し、よりクリーンな未来を切り開くためのインフラを提供しています。ChargeUKのメンバー企業は、英国がEVを所有・充電するのに最適な場所になるよう尽力しており、その鍵は、適切な場所に適切な充電インフラを設置することです」

もう1社、激しい批判を展開したのはInstavolt社で、首相のコメントを「まったく受け入れられない」とした。

同社のエイドリアン・キーンCEOは次のように述べた。

「ロードス島(ギリシャ)での山火事と今週の記録的な気温を考えると、このタイミングでの呼びかけは特に目を引きます。政治家の野心の欠如と身勝手さを示しており、彼らは、気候危機が迫っているのではなく、すでに到来していることを忘れているようです」

「これらの公約とその成果は、具体的な改善をもたらし、汚れた空気を浄化するのに役立つでしょう。政策の実現が必ずしも容易ではないことは承知していますが、汚染を引き起こしている都市や町で持続可能な交通を実現するためには不可欠なものです」

「政府の保護と支援がなければ、消費者の信頼は最も必要なときに低下し続けるでしょう。政府は、”Build Back Green” を掲げましたが、今回のような話はこうした公約に反するものです」

記事に関わった人々

  • 執筆

    ウィル・リメル

    Will Rimell

    英国編集部ライター
  • 翻訳

    林汰久也

    Takuya Hayashi

    平成4年生まれ。テレビゲームで自動車の運転を覚えた名古屋人。ひょんなことから脱サラし、自動車メディアで翻訳記事を書くことに。無鉄砲にも令和5年から【自動車ライター】を名乗る。「誰も傷つけない」「同年代のクルマ好きを増やす」をモットーにしている。イチゴとトマトとイクラが大好物。

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