マックイーンのフェラーリ 275GTB/4がオークションに登場 7.9億は高い? 安い?

公開 : 2023.09.01 11:45

マックイーンの275GTB/4

1960年代後半にマックイーンは、超希少な275GTS/4 N.A.R.T.スパイダーに乗っていたが、信号待ちの時に追突されてしまう。マックイーンは、N.A.R.T.スパイダーの修理に時間がかかることに我慢できず、すぐ手に入る275GTB/4を購入したのである。購入した275GTB/4は1967年後半に作られ、外装色はちょっと変わったノッチョーラ(ヘーゼルナッツ)という黄色がかった薄茶色で、インテリアはブラックレザーだった。

購入した275GTB/4は、信頼するリー・ブラウンの工房に持ち込まれ、キャンティ・レッドと呼ばれるダーク・マルーンでリペイントされた。マックイーンの要望で、N.A.R.T.スパイダーから取り外したボラーニのワイヤーホイールと、運転席側のフェンダー上に1950年代のポルシェ・レンシュポルト風のサイドミラーが取り付けられた。仕上がった275GTB/4は、マックイーンのお気に入りの1台として、撮影現場への通勤に使用された。1971年にはこのフェラーリを俳優のガイ・ウィリアムズに売却した。

フェラーリ 275GTB/4
フェラーリ 275GTB/4    Tim Scott/RMサザビーズ

その後何人かを経て、1970年代後半にクラッシュを喫する。そして1980年に損傷した状態で入手した新オーナーは、ルーフをカットしてN.A.R.T.スパイダーに改造してしまった。1997年にサンフランシスコへ、2009年になるとオーストラリアへ渡り、元ポルシェのワークスドライバーで1983年ル・マン優勝者のヴァーン・シュパン氏が入手する。シュパン氏は、このフェラーリをオリジナルの姿に戻すべきと考え、レストアに着手する。まず徹底的な考証を行い、スパイダー改造時に取り外された部品の大半を探し出して入手することができたという。

こうして275GTB/4の車体と部品はフェラーリ・クラシケに送られ、レストアが始められた。マックイーンに敬意を表し、彼の注文色であるキャンティ・レッドで仕上げられ、さらに当時の仕様に戻すため、ワイヤーホイールと独特なサイドミラーが装着された。またカリフォルニアの希少なブラック・ライセンスプレートが残されていることも見逃せないポイントだ。

レストアが完成した275GTB/4にはフェラーリ・クラシケ認定書が備わる。そのままマラネッロのムゼオ・フェラーリでの「シネマのフェラーリ展」で公開されている。その後2014年にシュパン氏はオークションへ出品し、イギリスの愛好家が落札する。彼は2016年のヴィラ・デステ・コンコルソ・デレガンツァでこの275GTB/4を披露した。

再びオークションに登場

そして、マックイーンが所有したフェラーリ 275GTB/4が再びオークションに姿を現した。この8月に開催されたRMサザビーズ・モントレーオークションに出品されたのである。

実は2014年のモントレー・オークションで、マックイーンの275GTB/4は1017万5000ドル(当時のレートで10億4294万円)で落札されていたのである。この時はレストアが完成した直後の完璧な状態で、コレクターズカー・バブルが始まった時期だったこともあり、大盛り上がりした結果だった。今年のモントレー・オークションに再登場したマックイーンの275GTB/4は、主催者発表の予想落札額は500-700万ドルと控えめだった。入札を終えてみれば、最終的に2014年の約半分となる539万5000ドル(約7億8767万円)でハンマーが振り下ろされた。

フェラーリ 275GTB/4
フェラーリ 275GTB/4    Tim Scott/RMサザビーズ

直近における275GTB/4の相場は350万ドル前後となるだけに、マックイーンが所有していたヒストリーを考えると、ノーマルの約1.5倍止まりの539万5000ドルは大バーゲンといえる。今回のモントレー・オークションは、貴重な大物物件が多数出品されたため、マックイーンの275GTB/4が、陰に隠れてしまったのかもしれない。

ここにきてクラシック・フェラーリの落札額は上昇傾向にあるだけに、次にマックイーンの275GTB/4がオークションに姿を現したときは、再び1000万ドルの値を付けるに違いない。

記事に関わった人々

  • 執筆 / 編集

    上野和秀

    Kazuhide Ueno

    1955年生まれ。気が付けば干支6ラップ目に突入。ネコ・パブリッシングでスクーデリア編集長を務め、のちにカー・マガジン編集委員を担当。現在はフリーランスのモーター・ジャーナリスト/エディター。1950〜60年代のクラシック・フェラーリとアバルトが得意。個人的にもアバルトを常にガレージに収め、現在はフィアット・アバルトOT1300/124で遊んでいる。

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