【第8回】サイトウサトシのタイヤノハナシ~雨のドライブは楽し! 奥深きウエットグリップ~

公開 : 2025.05.21 17:05

タイヤが大好物のサイトウサトシが、30年以上蓄積した知識やエピソードを惜しみなく披露するこのブログ。第8回は、ウエットグリップとタイヤの適正作動温度について、具体的な数値も交えて解説します。

雨の日のタイヤの感触、タマリマセン

雨の日のドライブが好きです。

雨に濡れた路面を踏むタイヤの、何割かグリップが乏しくなった感触、その心許なさというか、危うい感じがいい。

雨の日はグリップ限界が身近になり、クルマを操る感覚が濃くなると筆者は感じている(写真はイメージです)。
雨の日はグリップ限界が身近になり、クルマを操る感覚が濃くなると筆者は感じている(写真はイメージです)。    佐藤亮太

最近のクルマは、タイヤも含めて性能が高くなって、普段ドライ路面を走っていてもグリップの限界を意識することはありません。

でも雨が降ると、グリップ限界が身近になって、クルマやタイヤのいろいろな動きが感じられるようになります。

雨で冷えて硬くなるトレッドゴム、トレッドブロックの変形する感じ、あるいはエッジが立った感触。徐々に滑り成分が多くなってくる手元に届く感触。

そんな時、クルマを操っている感覚がググッと濃くなってきます。

みなさんはいかがでしょうか?

さて、今回のテーマは、前回に引き続きウエット。特にウエットグリップにフォーカスしてみたいと思います。

最近は国内でタイヤラベリングが行われているので、乗用車用サマータイヤの場合、ほぼすべて(日本自動車タイヤ協会加盟メーカー)のタイヤで転がり抵抗とウエットグリップがテストされ、カタログやWEBページに掲載されますし、新品タイヤにもシールが貼られています。

この制度は2010年1月から運用が始まっているので、それなりに認知度が高いんじゃないかと思っています。

また、この制度の優れている点は、販売しているタイヤサイズを全数テストしていることです。

同じ基準でテストしているので、メーカーに関係なく性能を横比較できるところも、画期的な点です。

ですから、このグレーディング制度は、転がり抵抗とウエットグリップの絶対的な評価として、タイヤを選ぶときの参考になります。

キーワードは『適正作動温度』

で、このタイヤグレーディングの評価を見ると、興味深い点があるのに気付きます。

ウエットグリップのいいタイヤを探そうとハイグリップタイヤを調べてみると、ウエットグリップが最高点のaではなく、bだったり、cだったりするのです。

ハイグリップタイヤのウエットグリップが、必ずしも高いとは限らない(写真はイメージです)。
ハイグリップタイヤのウエットグリップが、必ずしも高いとは限らない(写真はイメージです)。    佐藤亮太

なぜ? と思われるかもしれませんが、これはタイヤの適正温度が大きく影響しているのです。

例えばエコタイヤの適正作動温度は10~60℃、コンフォートタイヤは20~70℃、ウルトラハイパフォーマンスタイヤや超ハイグリップタイヤは50~100℃、スタッドレスタイヤ-20~10℃くらいといわれています。

ちなみにタイヤグレーディングでテストするときの気温と水温は、
路面温度 5~35℃
大気温度 5~40℃(通常は20℃前後で管理)
路面散水水温 5~35℃(目標値20℃±5℃)
となっているそう。

つまり適正作動温度よりも低い温度でテストしているわけです。雨の日に超ハイグリップタイヤのウエットグリップ評価が高くないのはこういう訳なんです。

実際、雨天時における超ハイグリップタイヤのグリップ性能は高くないので、注意が必要です。また、ミシュラン・パイロットスポーツやコンチネンタル・スポーツコンタクトなど、ウルトラ・ハイ・パフォーマンスタイヤ(UHP)にカテゴライズされるプレミアムハイパフォーマンスカーや欧州のハイパワースポーツカーに装着されるタイヤは、ひと世代前まではウエットグリップbでしたが、現行モデルはaを取得しているようです。

この2つのタイヤには、以前ちょっと試乗しているのですが、コンパウンドがウエットグリップを考慮した方向に少し変わったように感じました。それでいながら、従来と変わらないか、上回るドライパフォーマンスを発揮したのです。タイヤ開発にコストを掛けられるUHPならではということでしょうか。

つまり、コンパウンド開発や材料にお金をかけて、より幅広い温度域でグリップ性能を発揮できるように作られているということです。

記事に関わった人々

  • 執筆

    斎藤 聡

    1961年生まれ。学生時代に自動車雑誌アルバイト漬けの毎日を過ごしたのち、自動車雑誌編集部を経てモータージャーナリストとして独立。クルマを操ることの面白さを知り、以来研鑽の日々。守備範囲はEVから1000馬力オバーのチューニングカーまで。クルマを走らせるうちにタイヤの重要性を痛感。積極的にタイヤの試乗を行っている。その一方、某メーカー系ドライビングスクールインストラクターとしての経験は都合30年ほど。

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