【第9回】サイトウサトシのタイヤノハナシ~オールシーズンタイヤ、進化の歴史~

公開 : 2025.06.18 17:05

寝ても覚めてもタイヤに夢中のサイトウサトシが、30年以上蓄積した知識やエピソードを惜しみなく披露するこのブログ。第9回は、近年進化が目覚ましいオールシーズンタイヤについて、人気沸騰のきっかけを振り返ります。

昔から、あるにはあったけれど……

最近、夢の中に唐突にC8H8とかC4H6、C5H8なんて文字や写真のような分子式が出てきて、ハッとして眼が覚めてしましまうことがあります。もしかしたら病気かもしれません……。

最近注目を集めているタイヤのひとつに『オールシーズンタイヤ』があります。いまでこそ、一年中使える便利なタイヤとして扱われるようになりましたが、オールシーズンタイヤというのは昔からあったのです。ただし、あまり良い印象ではありませんでした。まあ、『昔』というのは1980年代のことですから、大昔の話ですが。

謎の呪文が書いてある、と思いきや、タイヤのゴムの分子式だそう。
謎の呪文が書いてある、と思いきや、タイヤのゴムの分子式だそう。

当時のオールシーズンタイヤといえば、北米で多く標準装着されているタイヤという認識でした。1970年代後半から80年代にかけて、北米ではラジアルタイヤの普及とともに、オールシーズンタイヤが多く標準装着されるようになっていました。

けれども、当時のオールシーズンタイヤは、ドライ路面のグリップが物足りず、氷雪路でもグリップしない(悪い)、サマータイヤとウインタータイヤの悪いところが出てしまったようなタイヤ、そんな感想を持ったのを覚えています。実際、『中途半端』といった評価が優勢だったように思います。

オールシーズンタイヤのイメージがガラリと変わったのは、グッドイヤー『ベクター4シーズンズ』の登場がきっかけでした。『スノーフレークマーク』付きで、それまで期待していなかった冬道性能が格段に向上。しかも、夏場でも普通に舗装路を走ることができることに驚かされました。

きっかけは、ドイツの法改正

オールシーズンタイヤ人気が世界的(欧州と日本ですが)になったきっかけは、2010年のドイツの道路交通規則の改正でした。ドイツ国内で、冬季にウインタータイヤの装着が義務化されたのです。

ドイツ人は法律を守ることを小さい頃からインプリンティングされているので、クルマを1年中走らせるためには、ウインタータイヤの購入はマストとなってしまったわけです。法律を守るドイツ人は、同時に吝嗇(≒合理的)でもあります。できれば余計な出費はしたくない、そんな中で注目を集めたのが、2008年発売のベクター4シーズンズだったのです。オールシーズンタイヤを買えば、夏も冬もこれ1本でOKじゃないか、というわけ。

グッドイヤーのベクター4シーズンズ・ハイブリッドの登場は、オールシーズンタイヤ人気を本格的なものにした。
グッドイヤーのベクター4シーズンズ・ハイブリッドの登場は、オールシーズンタイヤ人気を本格的なものにした。    グッドイヤー

しかも、欧州(≒ドイツ)では、ウインタータイヤでも高速操縦安定性を重視する傾向が強く、ベクター4シーズンズは、サマータイヤ並の高速操安とウインタータイヤに迫る雪道性能でじわじわと人気を集めました。そして2016年、ベクター4シーズン・ハイブリッドの登場で、本格的にオールシーズンタイヤの地位が確立されたのです。もちろん他のタイヤメーカーも指をくわえて見ているはずはなく、すべてのタイヤメーカーがオールシーズンタイヤ市場に参入した結果、欧州ではオールシーズンタイヤ・バブルともいえるほど爆発的な売れ行きを見せることになりました。

そんなタイヤメーカーの動きもあって、日本市場でもオールシーズンタイヤに注目が集まるようになりました。ただ、日本の冬は世界的に見ても過酷なので、『日本の冬はスタッドレスタイヤ』という認識はなかなか揺らぎませんでした。

とはいえ、新世代となったオールシーズンタイヤの、ちょっとした雪なら安心して走れる雪性能は、非降雪地域のユーザーには十分に魅力的でした。

しかも第2世代、第3世代と進化する過程で、オールシーズンタイヤは若干、雪道寄りに進化していきます。ドライグリップの限界はめったに体験しませんが、雪道のグリップ限界は頻繁に遭遇しますから、これは当然の進化といっていいでしょう。

記事に関わった人々

  • 執筆 / 撮影

    斎藤聡

    1961年生まれ。学生時代に自動車雑誌アルバイト漬けの毎日を過ごしたのち、自動車雑誌編集部を経てモータージャーナリストとして独立。クルマを操ることの面白さを知り、以来研鑽の日々。守備範囲はEVから1000馬力オバーのチューニングカーまで。クルマを走らせるうちにタイヤの重要性を痛感。積極的にタイヤの試乗を行っている。その一方、某メーカー系ドライビングスクールインストラクターとしての経験は都合30年ほど。

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