ホンダNSX

公開 : 2016.12.08 05:55  更新 : 2021.10.11 08:58

ならばNSXのパワートレインはスーパースポーツのそれとして完璧なのかというと、必ずしもそうではない。最大の弱点はその音ではないかと思う。音源の基調となるV6ツインターボエンジンの奏でるサウンド、もちろんそれなりにスポーティで、迫力もあるのだが、昨今のF1を連想させるなにやらデジタルな感触の音色に感じられ、残念ながらもうひとつ心に響かなかった。

ではNSXのもうひとつの注目点、ハンドリングはどうか。まずはステアリングについて書くと、レスポンスは気持ちよくクィックで、操舵力は軽いがフィールは不足なくあるといえる。ただし個人的な好みをいえば、下側だけでなく上の部分もややフラットな形状を与えられたステアリング・ホイールは、ある程度以上に回す必要がある場合に、違和感を覚えた。ステアリングは真円がいいというのは、今や旧い人間の戯言なのだろうか(苦笑)。

そのステアリングを操って箱根のワインディング・ロードに攻め込んだNSXは、メーカーが意図したとおりの、オン・ザ・レールなコーナリングを披露してくれた。中速コーナーはもちろんのこと、2速で抜けるタイトベンドでも、ごく軽いアンダーステアを伴いながらステアリングを切り増しすることなく、狙ったとおりのラインを描いて速いペースでコーナーを脱出していくのだ。

剛性の高いフレーム、低い重心、広いトレッド、4輪ウィッシュボーン式サスペンション、フロントが19インチ、リアが20インチの専用タイヤといった基本要素に加えて、左右前輪の電気モーター制御によるトルクベクタリングが効果を発揮しているのである。

であるならコーナリング中に何も起こらないかというと、そうではない。長尾峠の大きく回り込むヘアピンにハイペースで進入、アペックスを過ぎてスロットルを踏み込んだら、前輪がアウトに逃げない代わりに、後輪がズルッとテールアウトした。もちろんスライド幅は小さかったから、軽いカウンターステアで姿勢は即座に収束したが、前輪のグリップが鉄壁である反動として、こういうことが起こり得るのかもしれない。

特にクーリングに意を払ったという4輪ベンチレーテッドディスクのブレーキは、ワインディングロードでも、常に頼りになる存在だった。


記事に関わった人々

  • 吉田 匠

    Takumi Yoshida

    1947年生まれ。1971年、青学大卒業と同時に「CAR GRAPHIC」編集部に。スポーツカーの試乗記などを手掛け、FJ1600などのレースにも参戦、優勝経験数回。1985年、同社を退社、フリーランスのモータージャーナリストになる。「ポルシェ911全仕事」等、単行本多数。旧いスポーツカーに目がなく、愛車はポルシェ356B、ロータス・エランS2、他。

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