プアマンズ・ポルシェ?  リッチマンズ・ビートル? VWカルマン・ギアに乗る

公開 : 2017.06.10 00:00

チューンナップも可能

また一方で、幸運にもフォルクスワーゲンのあのバッジは、オーナー達がクルマの限界を超えて挑戦してきた不断の改良と改造の結晶である。このクルマの可能性に終わりはないだろう。かつては、こういったクルマを一番手っ取り早くパワーアップさせる方法といえば、ポルシェ356のエンジンとギアボックスへの換装だった。でも今は、残念ながら法外な値段だ。ただ、ドイツのパーツ・メーカーであるオクラサが、1950年代からビートルのパワーブースト・キットを販売してきた。それにソレックス・キャブを2基、デュアルポート・ヘッド、特製ピストンと特製バレルを組み込めば、トップスピードはゆうに150km/hオーバーとなり、0-100km/h加速のタイムも更新できる。それも356のエンジンへ換装する数分の1のコストで。過去にはシボレー・コルベアのフラット6エンジンを突っ込む猛者までいた。こうしたチューンを施せば、初期のカルマン・ギアの出力を、立ちどころに2倍にしてしまうだろう。

仕上がりのいいラチェットは閉じたフードをロックする。


さて、ポルシェ並みのパワーの問題も大切だが、違う選択も考慮すべきだ。それは、ビートルとカルマン・ギアの選択の問題だ。安価なビートルで間に合わすか、それとも、カルマン・ギア仕立てのドレスをまとった方に気前よくお金を積むリッチ・マンを演じるか。費用対効果を考えれば大いに悩むところだ。現実的には、クーペでいいということにすれば、そんな無理をすることはない。60年代後期の程度のいいビートルは、少なくとも5,000ポンド(80万円)はする。でも、もう1,000ポンド(16万円)用意してカルマン・ギア・クーペにすれば、通りすがりの人から「素敵なクルマですね、何と言う名前ですか?」と声を掛けてもらえる特別手当がついてくる。さらに、猫の額ほどのリヤシートまでついてくる。つまり、キュートで愛くるしいビートルよりも、カルマン・ギアのあのスタイルの方がどうしてもいいというのでない限り、得るアドバンテージはそれほど多くないということだ。

ルームライトはミラー・ステーに内蔵。

気がつくと夢中に

撮影を終えて、大西洋をはるかに見渡す丘でカルマン・ギアの後ろ姿を見ていると、このクルマに夢中になってしまった自分に気づく。外見に惚れたってことではない。たしかにグッド・ルッキングではある。でも、911に匹敵する美しさということは決してない。このクルマとのドライブは、パワー不足にもかかわらず全体として大いに充実している。もし、購入すれば、多くのオーナーと同じで、スロットルの上でムズ痒い思いをしないように強力なエンジンをぶち込む衝動と、私は悪戦苦闘するだろう。でも、今ここで心に引っ掛かるのはふたつだけ。こんな晴れた日にサーフボードを持って来れなかったこと、そして、オーナーにキーを返す時間が来たことだ。もしもクーペの値段でカブリオレが手に入るなら、ウチのガレージに一台収まることになる。

フォルクスワーゲン・カルマン・ギア

生産期間 1955〜1974年
生産台数 445,238台
車体構造 スティール・プラットフォーム・シャシー、スティールボディ
エンジン形式 アロイヘッド空冷OHV1493cc/ソレックスキャブレター
エンジン配置 リア縦置き
駆動方式 後輪駆動
最高出力 53.7ps/4200rpm
最大トルク 10.8kg-m/2600rpm
変速機 4段M/T
ステアリング ウオーム&ナット
全長 4140mm
全幅 1630mm
全高 1325mm
ホィールベース 2400mm
車両重量 840kg
サスペンション ツイン・トレーリング・アーム/トレーリング・アーム
ブレーキ ドラム(1967〜フロント・ディスク)
0-100mph加速(0-97km/h) 19.1秒
最高速度 138km/h
現在中古車価格 192万円〜

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