「タイプR」再考 1992年式NSX-R vs 2017年式シビック・タイプR

公開 : 2017.10.29 10:10  更新 : 2017.10.29 11:38

あくまで「本気のひと」のための

当時NSXは既に発売後数年を経過していたが、このクルマの設計者たちは、競合のフェラーリ(当時は不人気な348)を凌ぐドライビング・プレジャーと、ポルシェ911並みの実用性を両立させるべく、必死の努力を続けていた。そのためにモータースポーツ由来の技術が数多く用いられる事となった。

ホンダの技術者たちは可能な限りの軽量化を行うべく、遮音材やスペアタイヤを取り外し、スタンダードのシートをカーボン・ケブラー製のレカロ製バケットシートへと交換した。軽量なエンケイ製ホイールはばね下重量の軽減に貢献した。合計で削減された重量は100kgを超え、NSX-Rの車両重量は1230kgに留まる。

補強材の追加によりシャシーは強化され、スプリングレートとダンパー減衰率も高められたが、この強化幅は大きく、フロントはノーマルの2倍以上、リアも1.5倍へと高められた(当時もNSX-Rは硬すぎると評価されていたが、クルマそのものよりも時代が変わってしまったのかも知れない)。

VTEC V6エンジンは可能な限り公差が小さくなるように計画され、ギア比はショート化されている。1992年11月から1995年9月までの間に、483台のNSX-Rが製造されたが、英国に正規輸入されることはなく、今日では数えるほどの台数しか英国内には存在しない。

この車両は約9万7000kmの距離を刻んでいるが、現在考え得る完ぺきなNSX-Rと言えるだろう。

エクステリアも素晴らしく、長く延びたリアセクションは空母の甲板を思わせ、対照的に黒く塗られたルーフは戦闘機のコックピット・キャノピーのようだ。このクルマには究極の目的を達成する意思が感じられる。

キャビンはより運転に集中できるよう、ダッシュボードにはスウェードが張られ、リムの細いモモ製ステアリングにはエアバッグなど装着されない。

ステアリング・リムを越えて目に飛び込んでくるのは計器類だが、これまでに運転したクルマの中で最も視認性に優れたものだ。盤面は黒で、見やすい白のレタリングの上に明るい黄色の針が設置されている。

キャビンからの視界も良好だ。矢のように細いAピラーと、極端に低く構えたダッシュボード、後方視界の良さは、シビックよりも広い視野を確保してくれる。

一旦動きだせば、フロントタイヤを通じてアスファルトの粒のひとつひとつをまるで直接見ているかのように感じられる。前方視界も素晴らしく、NSX-Rを運転してみれば、なぜ現代のスーパーカーが路上であれほど大きく感じられるかと思うだろう。ほとんど何も見えないのだから。

最初のロールでNSX-Rがどれほど硬く締めあげられているかに気づく。

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