ロールス・ロイスの劇的コンバージョン 世にもエレガントな働くクルマ

公開 : 2019.05.21 07:10  更新 : 2020.12.08 10:40

最初で最後のピックアップ

オーナーのアンソニー・バンフォード卿は完璧主義者のようで、このコンバージョンをより完璧なものにするために、他にも細かいオーダーがあった。テールゲートに飾られた「PICK UP」のエンブレムは、オリジナルのシルバーシャドーのエンブレムと同じデザインで特注。トノカバーのキャンバスに打ち込まれた固定用のスタッドは、金属色のままだったのが気に入らず、黒色のものに打ち直してある。二重構造のトノカバーは使わない時はキャビンの背後に丸められるが、レザー製のストラップで固定できるようになっている。

実際にドアを開けて乗り込もうとすると、思わず顔がほころぶに違いない。豪奢なキャビンに腰を掛け、遠くでささやくスムーズなV8エンジンで走り出せば、車体後半がトラックに生まれ変わっていることは忘れてしまうだろう。

路上での乗り心地は素晴らしく、トロリと滑らかなパワー感に非常に軽量なステアリングフィール、ヨットのようにフワリとコーナーで向きを変える走りっぷりは、名作映画のリメイク版のように心地よい。ジャズピアニストのミシェル・ルグランの旋律を聴くのに、シルバーシャドーをドライブしながら以上のシチュエーションはあるだろうか。エセックスの郊外の道を走らせると、沿道のひとの視線が楽しい。ロールス・ロイスの象徴でもあるパルテノングリルを見送るも、クルマのリアセクションを見るやいなや、スマートフォンを取り出し写真を撮影し始める。

このシルバーシャドーのピックアップはJCBヒストリック・レースチームの素晴らしい装備のひとつになった。グッドウッド・フェスティバルの会場に行けば、目にする機会もあるだろう。レースパドックのガレージに半分隠れる状態で駐車されている状態なら、ミントコンディションのシルバーシャドーだと思うはずだが、回り込んで見れば、最高にカッコいいレースのサポート車両だと気づき、釘付けになるに違いない。

しかし、クラーク・アンド・カーター社のスティーブ・クラークは、コンバージョンに費やした時間と手間には、相当に参った様子。恐らく同社にとっては、これが最初で最後のピックアップとなるのかもしれない。

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