クルマとは動くアート デザイナーに訊く アイデアは映画やゲームから 前編

公開 : 2019.09.21 20:50

動くアートとしてのクルマを創り出すデザイナーに話を聞きました。そのアイデアは映画やゲームからもたらされたと言いますが、単なるオブジェにはとどまらず、実際に動かすこともできるこうした作品が持つ意味は、単にひとびとを驚かせるだけではないようです。

もくじ

複雑怪奇 驚愕のマシン
憧れはマッドマックス
旋盤への愛 構造にも興味
イマジネーションとエンジニアリング

複雑怪奇 驚愕のマシン

ストレッチ版のロールス・ロイス・ファントムを軽く凌ぐ26フィート(7.9m)もの全長と、3tもの重量を持つこのクルマの動力源は、5.0L V8フォード・コヨーテエンジンであり、25本ものインテークパイプと31本ものエグゾーストパイプの上には、時計の脱進機に着想を得た巨大なトゥールビヨンと、回転するカゴのなかに収まる可動ギアが鎮座している。

さらに、ステンレスチューブ製のフレームと、合金製サスペンションパーツに覆われたこのクルマの複雑な造形からでは分かり辛いが、目視できるその外観のほとんどはきちんと機能するように作られており、まるで竜の鱗のように見える鋳鋼スチール製マッドガードが、巨大なふたつのフロントホイールを覆い、オープンの「キャビン」には運転席両側にふたつの助手席が、さらにその後ろにもふたつのシートが備わっている。

バリリアン・スチールは「ゲーム・オブ・スローンズ」からインスパイアされた作品だ。
バリリアン・スチールは「ゲーム・オブ・スローンズ」からインスパイアされた作品だ。

バリリアン・スチールと呼ばれるこのクルマを創り出したのは、ミュージシャンで彫刻家、そしてデザイナーであり、独学でメカニカルエンジニアを学んだ56歳のヘンリー・チャンだが、彼が拠点としているのは他のどこでもない、世界のエンターテインメントの中心地ラスベガスだ。

憧れはマッドマックス

ある日の朝(米国時間だ)、彼にスカイプでインタビューする機会を得た。

「ワークショップにいます」と彼は言う。「熟睡することはありません。頭のなかをつねに新たなアイデアが駆け回っているからです」

ヘンリー・チャン:アーティストでありビジョナリー、そして56歳にしては引き締まっている。
ヘンリー・チャン:アーティストでありビジョナリー、そして56歳にしては引き締まっている。

チャンは携帯のカメラを切り替えて、彼の隠れ家とでも言うべき巨大なガレージのなかを案内してくれたが、バリリアン・スチールの隣には、同じくチューブラースチールから作り出された、さらに驚くべきルックスを持つ巨大なフラックス・キャパシターという名の車両が置かれている。

バリリアン・スチールは「ゲーム・オブ・スローン」から、フラックス・キャパシターは「バック・トゥ・ザ・フューチャー」にインスパイアされたという。

アイデアのもとについて、「映画マッドマックスを思い浮かべて頂きたいと思っています」と、チャンは言う。「わたしの作品を映画で使いたいという多くのオファーがありますが、映画に登場するなら素晴らしい映画に出演したいと考えています。マッドマックスならピッタリです」

旋盤への愛 構造にも興味

全長38フィート(11.6m)のフラックス・キャパシターでは、ミリタリースペックを持つ2本のアクスルに取り付けられ、ミッキー・トンプソン製ドラッグタイヤを履いた8つある54インチのリアホイールを操舵可能にしたいと彼は考えており、そのために21万5000ドル/17万ポンド(2287万円)もの金額を、彼が「25フィート(7.6m)x15フィート(4.6m)の封筒」と呼ぶ、新品のハース製CNC工作機械に投じている。

それでも、チャンがもっとも愛しているのは、精度がひとびとの命を左右していたと時代だと彼が言う第2次世界大戦中に米国で生産された巨大な旋盤だ。

駐車は得意ではなさそうだが、砂漠であれば問題ない。
駐車は得意ではなさそうだが、砂漠であれば問題ない。

「素晴らしい品質で、とても安定しています」と彼は言う。「もっと新しい機械に入れ替えたこともありましたが、この旋盤を手放すことは決してないでしょう」

ジャズピアニストとしてキャリアを始めたチャンが、まるでひとびとを驚かせ、喜ばせるだけが唯一の目的であるような、奇抜なマシンをデザインするだけでなく、自ら製作まで行うようになったのは何故だろう?

「父が土木工学の教授をしていたので、構造というものには興味を持っていました」とチャンは言う。

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