なぜEVで「疑似変速」が採用されるのか(前編) 高性能車の新たなトレンド? ギアとエンジンの動きを再現

公開 : 2026.06.11 17:25

ヒョンデが先駆けて導入した疑似的な変速機構は、高性能EVにおいて注目の高いレンドとなっています。なぜフェイクのトランスミッションを取り入れるのか。ヒョンデの開発者インタビューや他社の動向を紹介します。

単なる「おまけ機能」ではない

新しい技術が優れているかどうかは、わたし達の生活の中にどれほど早く、そして自然に溶け込んでいけるかで判断できる。例えば、非接触型カード決済をすることを、最後に意識的に考えたのはいつだろうか。

ヒョンデアイオニック5 Nの「N eシフト」システムを初めて体験した際、筆者はその擬似変速の操作にすぐに慣れ、ハードな走行時にはデュアルクラッチ式オートマティック・トランスミッションを模倣するように、バックグラウンドで動作させていた。N部門の試みは見事に成功を収めたと言えるだろう。

メーカーはなぜ「フェイク」の変速機構を取り入れるのか。各社の動向を紹介する。
メーカーはなぜ「フェイク」の変速機構を取り入れるのか。各社の動向を紹介する。

N eシフトは、「あったらいいな」というボーナスとして付け加えられたものではなく、最初からアイオニック5 Nの中心にあったはずだ。筆者のこの直感は、ドイツ・リュッセルスハイムにあるヒョンデ欧州拠点のシニアエンジニア、アレクサンダー・アイヒラー氏によって裏付けられた。

「非常に早い段階から構想されていました」とアイヒラー氏は言う。

「当時、アルバート・ビアマンがNの生みの親であり、彼はギアチェンジに関しては常に強い関心を寄せていました。彼はわたし達にデュアルクラッチ・トランスミッション(DCT)の開発を強く促し、EV時代にも同様のものを導入すべきだと考えていたのです」

リアルな挙動を再現するためには?

「その秘密、つまりこれほどリアルに仕上がった理由は、両方のプロジェクトに同じエンジニアが携わっていたことです。彼らはDCTのフィーリング、完璧なシフトと不完全なシフトのフィーリングを正確に把握していました。リアルさを出すためには、もちろん不完全でなければなりません。そうでなければ、あまりにも完璧すぎるからです」

不完全さの追求は、エンジニアリングチームにとって非論理的な理念のように思えるかもしれない。しかし、アイオニック5 Nに先立つガソリンエンジン搭載のヒョンデのホットハッチが、堅苦しいライバルたちとは一線を画す奔放なキャラクターゆえに愛されたように、その精神はEV時代にも受け継がれている。

ヒョンデ・アイオニック5 N
ヒョンデ・アイオニック5 N

アイヒラー氏はこう続ける。

「わたし達はさまざまなモデルを用いています。内燃機関のポンプ損失は回転数(RPM)によって変動するため、リアルな感触を得るには、仮想のドラッグトルク(空転抵抗)も回転数に応じて変化させる必要がありました。どのようなドラッグトルクを重ねるべきか、多くの議論を交わしました。そして最終的に、一般的なV8ガソリンエンジンから得られる数値のほぼ2倍という値に落ち着きました」

要するに、アイヒラー氏率いる開発チームは、アイオニック5が本来持つサイズと重量を相殺するために、シミュレーションのこの要素を特に強調せざるを得なかったのだ。「しかし、それ以外の部分は実際の内燃機関の物理法則を正確に再現しています」と彼は断言する。

記事に関わった人々

  • 執筆

    スティーブン・ドビー

    Stephen Dobie

    英国編集部ライター
  • 翻訳

    林汰久也

    Takuya Hayashi

    1992年生まれ。幼少期から乗り物好き。不動産営業や記事制作代行といった職を経て、フリーランスとして記事を書くことに。2台のバイクとちょっとした模型、おもちゃ、ぬいぐるみに囲まれて生活している。出掛けるときに本は手放せず、毎日ゲームをしないと寝付きが悪い。イチゴ、トマト、イクラなど赤色の食べ物が大好物。仕事では「誰も傷つけない」「同年代のクルマ好きを増やす」をモットーにしている。

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