【なぜ失敗作の烙印が?】BMW i8 惜別の辞 前編

公開 : 2020.04.07 11:30

今年生産終了を迎えるBMW i8ですが、ロードテスターのアンドリュー・フランケルはこのクルマを高く評価していました。その先進性と見事なパフォーマンスによって成功間違いなしと思われたi8は、なぜ失敗作の烙印を押されることとなったのでしょうか?

唯一無二の存在

初めてBMW i8を運転したのは2014年のことだった。

初めてのドライブを終え、少しでもこのクルマに対抗し得るモデルを考えてみたが、「時代に先行し過ぎた実験的なモデルというだけでも唯一無二の存在」だという結論に落ち着いている。

BMW i8 惜別の辞
BMW i8 惜別の辞

そして、「他メーカーも追随するとともに、この完ぺきとは言えないi8を上回るモデルを創り出すかも知れないが、現時点ではこのクルマの独壇場であり、大成功は間違いないだろう」と記事にしたのだ。

だが、わたしは間違っていた。

他にi8のようなモデルが登場することはなく、いまもこのクルマは唯一無二の存在であり続けている。

i8の失敗などあり得ないと思っていたが、事実は残酷であり、BMWが後継モデルを登場させないことが何よりの証拠と言えるだろう。i8は登録後1年でその価値を半分失うのだ。

ある1台を深く愛していると思っていても、次々と興味深いクルマが登場する自動車世界では、ひとつのモデルが姿を消したからといってそれほど悲しむことなどないが、少なくとも個人的にはi8に関してはそうではない。

沸きあがるアドレナリン

長期テストを担当したクルマのなかで、もっとも別れを寂しく感じさせたのがマクラーレン720Sだったことは確かだが、次点がi8であり、マクラーレンとの差は決して大きくなかった。

i8との別れを寂しく思うのにはふたつの理由がある。

長期テスト車としてi8を担当したフランケルは、いまもこのクルマを思い出すと言う。
長期テスト車としてi8を担当したフランケルは、いまもこのクルマを思い出すと言う。

まずは何といってもこのクルマのパフォーマンスだ。

大陸横断のような冒険行から近所の買い出しまで、このクルマはどんなドライブも特別なものにしてくれるのであり、朝ガレージに停まっているi8を目にするだけでアドレナリンが沸き上がって来る。

スタイリングの見事さはいまも変わらず、その斬新なボディラインも色褪せることがない。

そして、このクルマのパフォーマンスは常に不当に評価されてきたと言えるだろう。

限界でのステアリング特性がオーバーステアであれアンダーステアであれ、このクルマはそうしたことを評価するようなモデルではないのだから大した問題だとは思えない。

適切なギア比を与えられた正確なステアリングとともに、i8には素晴らしく軽快な乗り心地が備わっているという事実のほうがより重要だろう。

見事なバランス

さらに、このクルマはパワートレインも素晴らしい。

見事なレスポンスとサウンドを備えており、もしi8のエンジン音を人工的だと批判するのであれば、他の現行モデルを見てみれば良い。

電気モーターがフロントホイールを駆動する。
電気モーターがフロントホイールを駆動する。

いまや多くのモデルが何らかの形でサウンドコントロールシステムを導入しているのだから、個人的にはまったく問題だとは思わない。

だが、i8のドライビングで何よりも素晴らしいのは、このクルマのシャシーとパワートレインとの見事なマッチングだ。

まったくオーバーパワーなど感じさせないこのクルマであれば、つねにブレーキングに気をとられることなく、ドライビングのリズムに集中することが出来る。

一方でアンダーパワーだと感じさせられることもない。

現代のクルマとは思えないほど細身のタイヤが、i8のドライビングを素晴らしく感じさせるもうひとつの理由であり、まさに見事なバランスだと言える。

だが、i8との別れを惜しむもうひとつの理由はまったく別のところにあるのだ。

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