【生産終了話題】ホンダS660 常識覆す「贅沢車」 今買うべき理由は山ほど

公開 : 2021.03.15 05:45  更新 : 2021.10.13 12:04

世に送り出されたことが奇跡

一方で、そのあまりにも「贅沢すぎるつくり」を客観的にみれば、S660を世に送り出す判断をしたホンダは狂っているとしか思えない。

コストを計算して冷静な判断をすれば、こういったクルマにゴー・サインは出せないだろう。

ホンダS660
ホンダS660    ホンダ

でも、それをやってしまうのがホンダの素晴らしさだと思う。効率よりも何よりも、世の中のスポーツカーに喜んでもらえる作品を作ることを選んだのだ。

S660開発のきっかけは本田技術研究所設立50周年を記念して社内で募集した「新商品企画提案」で1位に選ばれたことだが、その時、社内でのベクトルが重なった結果、奇跡的に世に送り出されたスポーツカーといっていいだろう。

ゆえに、フルモデルチェンジは難しいと思われる。

今は開発がスタートした2011年頃に比べ、自動車の商品企画においてさらなる効率化が声高に叫ばれている。加えて、脱炭素という流れからクルマ社会が電動化へ向けて大きく舵を切ったことでそちらへエンジニアのリソースが大きく割かれつつある。

そんな状況を鑑みると、ホンダのような量産メーカーからは、こういう贅沢なクルマが2度と登場しない可能性も高い。

贅沢といえば、S660は作りだけでなく存在自体も贅沢だ。

乗用車とスポーツカーの違いは「どこまで実用性を求めているか」にあると考えているが、S660には荷物スペースがない。はっきりいって「使えないクルマ」である。

でもそれでいいのだ。走りを楽しむために生まれてきたクルマなのだから。

そんな使えないクルマを所有すること自体が、贅沢な行為なのである。

「走り」の気軽な楽しさ、随一

走りは、もちろん期待を裏切らない。

830kg(MT車)という軽さとミドシップレイアウトが生み出すハンドリングにはドライビングプレジャーが詰まっている。

ホンダS660
ホンダS660

ただし、ハイパワーや絶対的な速さを誇るコーナリングといったハイレベルな性能をおそるおそる楽しむ楽しさとは一線を画する。

気軽に爽快感を楽しめる性能なのだ。それがまたいい。

小さい車体だから車幅感覚がつかみやすく、車幅が肩幅くらいに感じられる。そして軽さゆえに動きは軽快そのもの。まるでバイクのような身軽さが楽しいのだ。

スッと切り込むハンドリングは普通にゆっくりと交差点を曲がるだけでも楽しめるが、タイトな峠道を走る時の爽快感は格別だ。それこそがS660の醍醐味である。

適度なパワーもいい。

ちょっと足りないくらいの過剰過ぎない加速力だから気軽にエンジンをぶん回せるし、何より運転しているとパワーを使い切るよろこびがある。排気量125ccくらいのバイクに乗っているかのような、ちょうどいいパワー感なのだ。

生産終了、買うなら今しか

そんな贅沢なS660ながら価格は手が届きやすいのだからありがたい。

たとえば同じホンダの軽自動車である「Nワン」のスポーツグレード「RS」の価格は199万9800円。S660は203万1700円から選べる(上級グレード「α」は232万1000円)。

ホンダS660
ホンダS660    ホンダ

先進安全機能など装備が異なるから単純比較はできないのだが、専用プラットフォームの少量生産スポーツカーがこの価格で買えるのはバーゲンとしかいいようがない。

残価率が高いので、5年間の残価設定ローンを組めば頭金やボーナス払いなしでも月々3万円ほどの支払いで「α」を所有できるほど。

専用の車体設計を施した本格スポーツカーをその金額で楽しめるなんて、世界中をみても日本くらいだろう。

ところで、ニュースが入ってきた。

2022年3月をもってS660は生産を終了するというのだ。

S660は原稿執筆時点でも仕様によっては5か月ほどの納期がかかる。すなわち新車を買う決断のために残された時間はそう多くないのだ。

買わないと後悔する。何を隠そう、誰よりもそう強く感じているのは筆者自身である。

記事に関わった人々

  • 工藤貴宏

    Takahiro Kudo

    1976年生まれ。保育園に入る頃にはクルマが好きで、小学生で自動車雑誌を読み始める。大学の時のアルバイトをきっかけに自動車雑誌編集者となり、気が付けばフリーランスの自動車ライターに。はじめて買ったクルマはS13型のシルビア、もちろんターボでMT。妻に内緒でスポーツカーを購入する前科2犯。やっぱりバレてそのたびに反省するものの、反省が長く続かないのが悩み。

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