【羽ばたけないガルウイング】メルセデス・ベンツSLRマクラーレンとブリストル・ファイター 後編

公開 : 2021.07.04 07:05

21世紀が始まって間もない頃に誕生した、SLRマクラーレンとファイター。320km/h超の最高速へ挑戦した、2台のスーパーカーをご紹介します。

美しく旋回する正確なステアリング

text:Martin Buckley(マーティン・バックリー)
photo:Luc Lacey(リュク・レーシー)
translation:Kenji Nakajima(中嶋健治)

  
メルセデス・ベンツSLRマクラーレンを降り、少し呼吸を整えて、ブリストル・ファイターに乗り換える。柔らかなレザーの内装が示すように、より近づきやすい。

運転席からの視界は、全方向で良好。ドライビングポジションも至って普通。開放的な車内で、すぐにリラックスできる。

シルバーのメルセデス・ベンツSLRマクラーレンと、ワインレッドのブリストル・ファイター
シルバーのメルセデス・ベンツSLRマクラーレンと、ワインレッドのブリストル・ファイター

インテリアデザインは、突飛な工夫もなく控え目。飛行機のコクピットのように、フロントガラスの上に補機メーターが並び、サイドガラスは下半分だけが開く。ファイターという名へ忠実に思える。

サスペンションの設計は綿密に行われ、空力特性にも配慮され、前後の重量配分のバランスも良い。
巨大なV10エンジンを軽くコンパクトなボディに載せ、高めのギア比で走るという特徴を、慎重に煮詰めてある。

穏やかに右足を動かせば、6段のギアを順番に選んで、ブリストルを静かに走らせることもできる。分厚いトルクを活かし、大面積のグラスエリアに広がる景色を楽しみながら運転できる。

握り心地の良いステアリングホイールのスポークは、ノコギリ状のカタチで左右が下へカーブを描く。1950年代のブリストルのように、操縦桿を連想させるデザインだ。

少しペースを速めて、コーナリング。修正舵を当てる必要のない、正確なパワーステアリングと結ばれている。ファイターは機敏。過度な集中力を必要とせず、ドライバーへ判断を求め、美しく旋回し充足感を与えてくれる。

依然として見事な存在感を放つSLR

巡航速度では、優れた空力特性で安定感も一層高まる。SLRに備わる、エアブレーキのような仰々しい技術に頼る必要もない。

強くブレーキングしても、ファイターはノーズダイブもしない。急加速をしても、テールが沈み込むこともない。操作系の重み付けはすべてに一貫性があり、運転という操作へ素晴らしく適している。

シルバーのメルセデス・ベンツSLRマクラーレンと、ワインレッドのブリストル・ファイター
シルバーのメルセデス・ベンツSLRマクラーレンと、ワインレッドのブリストル・ファイター

さらなる積極性を求めてシフトレバーを操作すれば、ゲートを滑らかにスライドする感触が心地良い。加速力はSLRに匹敵するほどだが、熱狂的な興奮度合いは遥かに少ない。

滑らかに回転数が上昇し、静かに咆哮が遠くで響く。V10エンジンが生み出す、ベルベットのようにスムーズなトルクの波に押されるように、加速の流れに乗る。これ以上の勢いが欲しいと筆者は思えないが、さらなるパワーを求めるオーナーもいた。

ブリストル・ファイターにはノーマルの他に、637psのSが存在していた。1014psを生み出すターボ版のTも計画されたが、完成することはなかったらしい。

メルセデス・ベンツSLRマクラーレンが生産を終えたのは2009年。以降も21世紀の頂点を求め、多くのエクストリームなスーパーカーが生み出された。しかし、新車当時33万ポンドという値段で売られたSLRは、依然として見事な存在感を漂わせる。

プラグ交換だけでも、1万5000ポンドを請求されたという。運転するだけで1つのイベントになる。所有することを、負担に感じられることもあるだろう。

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