【従来のデフとは大きく異なる】アウディRS3のトルクスプリッターとは? 仕組みを解説

公開 : 2021.07.20 18:05

新型アウディRS3に採用されたトルクスプリッターは、2つのクラッチを制御してトルク配分を可変します。

2つの湿式多板クラッチで制御

text:Jesse Crosse(ジェシ・クロス)
translator:Takuya Hayashi(林 汰久也)

8月に欧州で発売予定の新型アウディRS3には、リアディファレンシャルギアを廃止し、2つの湿式多板クラッチに置き換えた新しいトルクベクタリングシステム、トルクスプリッターが搭載されている。後輪のトルクを可変配分し、ドリフトを可能にするものだ。

従来のディファレンシャルの欠点は、トラクションを失ったときに片方の車輪が空転してしまうところで、パワフルなモデルでは特に問題となっている。そこで、左右の車輪の回転速度差を制限して、片方がスピンし始めたときに対応するリミテッド・スリップ・ディファレンシャル(LSD)を採用している。LSDには、機械的に制御するものと、電子的に制御するものがある。

新型アウディRS3に搭載されているトルクスプリッター
新型アウディRS3に搭載されているトルクスプリッター

アウディの新しいトルクスプリッターは、従来のシステムとは全く異なり、リアアクスルにディファレンシャルギアを一切搭載していない。その代わりに、一対のベベルギアが駆動を伝達し、その両脇には2つの電子制御クラッチが配置されている。

2つのクラッチは独自にコントロールされており、モジュラー・ビークル・ダイナミクス・コントローラ(MVDC)が統括する。MVDCは、シャシーシステム全体を制御するオーケストラの指揮者のようなものだ。

RS3の場合、MVDCは2つのトルクスプリッター・コントロールユニットだけでなく、アダプティブダンパーとホイールへの個別トルク制御も同期させている。縦・横方向の加速度、操舵角、スロットル開度、ヨー角を計測する各センサーから情報を集めるが、特にヨー角はトルクベクタリングに不可欠なものだ。

これらのセンサーの多くは、エンジンやスタビリティ・コントロールシステム用にすでに存在しており、あらゆるデータがトルクスプリッターの制御に使用される。

バランスと機動力を高める

お気づきかもしれないが、このマグナ社のトルクスプリッターは、GKN社のツインスター(最新のフォード・フォーカスRSなどに採用)によく似ている。2つのクラッチの基本的な配置と、ディファレンシャル用の「スパイダー」ギアがないという点では共通しているが、決定的な違いがある。

まず、フォードに採用されているシステムでは、リアアクスルのファイナルドライブレシオがわずかに高くなっており、ドリフト時にフロントよりもリアに大きなトルクを送るために必要な「オーバースピード」を生み出している。その必要がないときは、2つのクラッチを滑らせてリアへのトルクを減らす。

新型アウディRS3
新型アウディRS3

しかし、アウディはそれとは異なるアプローチをとっている。何もない素の状態では、フロントとリアのトルク配分は50:50で、ドリフトのためにリアのトルクが必要なときは、フロントのトルクを小さくするというものだ。

ドリフト時に使用する「RSトルク・リア」モードでは、フロントのトルクを常に変化させてクルマのバランスを保ち、一瞬ではあるが外側の後輪に100%のトルクを送ることができる。一方、「コンフォート/エフィシェンシー」モードでは、リアのクラッチを滑らせてフロントを優先させる。

他の走行モードでは、コーナリング時に外側の車輪にかかるトルクを増やすことで、アンダーステアを軽減し、俊敏性を高める。また、内輪へのトルク配分を増やすことで、オーバーステアを軽減することもできる。

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