【思い出のクロスフロー】ケータハム・スーパースプリントへ再試乗 理想の1997年式

公開 : 2021.09.19 08:25  更新 : 2021.10.15 13:24

理想的なクロスフローのセブン

古いケータハムのフロント・サスペンションは、コーリン・チャップマンの哲学に習っている。アッパー・ウイッシュボーンの半分は、アンチロールバーが担っている。だが、想定以上に横方向の負荷が強く、うまくは機能していない。

リアのリジットアクスルは、骨に染みる振動を伝える。コクピットは狭く、4速MTだ。筆者が本当に欲しかったのは、本物のダブルウイッシュボーン・サスペンションを備える、現代的なケータハムだった。

ケータハム・スーパースプリント(1997年/英国仕様)
ケータハム・スーパースプリント(1997年/英国仕様)

リアにはドディオン・アクスルが組まれ、S3の長いコクピットが良かった。トランスミッションは、5速がイイ。

そんな組み合わせが存在するのか謎だったが、見事に発見できた。ブランズハッチ・セブンス&クラシックスで。筆者が古くから知る、ケータハムの営業マンをしていた人物が立ち上げたガレージだ。

理想的なシャシーとサスペンション、5速MTが載り、ボディはポリッシュ・アルミとダークグリーンで仕上げてある。1997年式で、もちろんエンジンはクロスフロー。これ以上のケータハムはないと感じた。

ケータハムから距離をおいていた筆者は、その年代までケント・エンジンを登用していたとは知らなかった。恐らく、最後のクロスフロー・セブンなのだと思う。

エンジンはリビルドされ、状態は完璧。感触はソリッドで、新車のケータハムのように走る。快適で、ルーフを閉めてヒーターを入れれば冷えた朝でも居心地が良い。

現代的なケータハムより見た目も魅力的。小さな丸いヘッドライトが、フロントノーズの先端に並ぶ。

中古のケータハムを超える存在とは

この印象をまとめ上げているのが、クロスフロー・エンジンだ。実用目的で生まれたフォード・ユニットだが、ケータハムのエンジンルームを見事に彩る。プッシュロッドの鉄の塊でも、心に響く個性がある。

寒い朝には、エンジンを生き返らせる儀式がある。正しい量の燃料を、大きなウェーバー・キャブレターに送り込むと、咳払いしながら目を覚ます。ほかのエンジンでは聞けないような大きい唸り声を上げて、落ち着いたアイドリングに入る。

ケータハム・スーパースプリント(1997年/英国仕様)
ケータハム・スーパースプリント(1997年/英国仕様)

アクセル・レスポンスは並外れて鋭い。パワーバンドはワイドだが、常に意欲的。レブリミット付近では、素晴らしい咆哮を放つ。アクセルペダルを放せば、アフターファイヤーの破裂音が混ざる。

しかも軽い。エンジンは鋳鉄製でも、重たいツインカムの16バルブ・ヘッドは載っていない。セブン・スーパースプリントの車重は530kgだ。

筆者の家へ来た、1997年式のケータハム。最初にしたことは、日曜日の夜明け前に起床し、ウェールズの山岳地帯を目指すことだった。

人影すらまったくない、暗がりの道でケータハムを飛ばす。筆者にとっては走り慣れたルートだ。2万ポンド(300万円)未満で、ここまで運転が楽しいと感じることは可能だろうかと、脳裏をよぎった。

しばし、久しぶりのスーパースプリントとの時間を楽しみたい。この金額で手に入るクルマの中で、運転好きのドライバーにとって、中古のケータハムを超えるものはないだろう。今後も恐らく。

記事に関わった人々

  • 執筆

    アンドリュー・フランケル

    Andrew Frankel

    英国編集部シニア・エディター
  • 撮影

    リュク・レーシー

    Luc Lacey

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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