WRCの栄光を市販車に スバル・インプレッサ P1とフォード・エスコート RSコスワース 前編

公開 : 2022.03.20 07:05  更新 : 2022.11.01 08:57

ワークスによるホモロゲーション・マシン

「シャシーエンジニアは、英国郊外の一般道を前提とした専用サスペンションを開発。MTのギア比も高められました。その結果、高速道路での長距離ドライブをリラックスして楽しめる、性格付けになっています」

「排出ガスや騒音規制にも準拠させながら、0-97km/h加速は4.6秒を実現。2000年前後では、スーパーカー級の加速力でしたね」

フォード・エスコート RSコスワース(1992〜1996年/英国仕様)
フォード・エスコート RSコスワース(1992〜1996年/英国仕様)

一方のエスコート RSコスワースは、比較すれば正攻法。フォードのワークスチームによって、レース参戦規定のホモロゲーション取得を前提に生み出されている。

WRCのグループAで優勝するという目標を達成するには、2500台以上の公道用モデルの販売が求められた。そこで、1989年に設計へ取り掛かったのが、スペシャル・ビークル・エンジニアリング(SVE)部門のロッド・マンスフィールド氏だ。

1990年に5代目フォード・エスコートが発売されるが、通常モデルとホモロゲーション・モデルで共通していたのはボディライン程度。その内側には、加工されたシエラ・コスワース用のプラットフォームが隠れていた。

当時のSVE部門でプロダクト・マネージャーを努めていたジェフ・フォックス氏の話では、ホイールベースを50mm短縮。シエラより短いものの、標準のエスコートより長かったという。

エスコート RSコスワースは、ボディパネルもほとんどが専用品。同じ部分は、3ドア用のドアとルーフだけだった。製造を請け負ったのは、ドイツのカルマン社だ。

シエラ・コスワースと同じパワートレイン

1992年後半に2500台限定でリリースされたエスコート RSコスワースの英国価格は、2万524ポンド。 多少角が丸められてはいたが、約350馬力のラリーマシンと同じギャレットT34ターボを搭載。最高出力227psを発揮した。

大径ターボのおかげで、インプレッサ P1もエスコート RSコスワースも、ターボラグが大きい。英国ではオール・オア・ナッシングと表現された、スイッチが入ったように切り替わる加速が個性でもあった。高効率化を図れる、水噴射システムも備わっていた。

フォード・エスコート RSコスワース(1992〜1996年/英国仕様)
フォード・エスコート RSコスワース(1992〜1996年/英国仕様)

ホモロゲーション取得以降のRSコスワースでは、最高300馬力ほどを引き出せる小径のギャレットT25ターボへ変更。よりリニアな加速を実現し、乗りやすい性格へ改められている。

生産されたすべてのエスコート RSコスワースには、ビスカスカップリング式の四輪駆動システムと、前後で34:66に駆動力を分配するセンターデフが装備されていた。基本的には、シエラ・コスワースと同じパワートレインだ。

「フィンランドの凍結した湖上で試験を重ね、デフのチューニングを詰めました。結果には満足していましたね」。と、SVE部門で技術者を務めていたレン・アーウィン氏が後に振り返っている。

「インプレッサと比較して、リア側へのトルク割合が大きい。スキルのあるドライバーにとって、オーバーステアでの扱いやすさと、予想のしやすい挙動をRSコスワースは得ていました」

この続きは後編にて。

記事に関わった人々

  • 執筆

    サイモン・ハックナル

    Simon Hucknall

    英国編集部ライター
  • 撮影

    オルガン・コーダル

    Olgun Kordal

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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