【現役デザイナーの眼:トヨタ・ランドクルーザーFJ】本気のサイコロモチーフ 『欲しかった』と思わせる商品開発力

公開 : 2026.02.13 12:05

現役プロダクトデザイナーの渕野健太郎によるデザイン分析。今回取り上げるのは、『トヨタ・ランドクルーザーFJ』です。デザインにおける注目ポイントを、ラフスケッチから読み解きます。

不利なパッケージを個性に変える工夫

SUVの主流がモノコック構造へ移行した1990年代以降、日本で購入できるラダーフレーム車は限られてきました。最小クラスのスズキジムニー、大型のトヨタランドクルーザー、そして最高級SUVのメルセデス・Gクラス。その間を埋める存在は、長らく不在だったと言えます。

そんな中、ちょうど良いサイズ感と現実的な価格帯で登場する『トヨタ・ランドクルーザーFJ』は、非常に注目度の高い1台です。今回は、そのデザインについて解説していきます。

全長に対しフロントオーバーハングが長いパッケージ。ルーフラインがリアドア以降で急激に下がっているところに注目。これでリアビューの比率を調整しています。
全長に対しフロントオーバーハングが長いパッケージ。ルーフラインがリアドア以降で急激に下がっているところに注目。これでリアビューの比率を調整しています。    トヨタ自動車

サイドビューを見ると、長いフロントオーバーハングや全高1960mmというかなり背の高いパッケージが分かります。SUVにおいて、これは決して有利とは言えない条件なのですが、ランクルFJはこれを逆手に取り、強い個性へと昇華しています。

これまでのランドクルーザー・シリーズは、ストイックな機能性や重厚な高級感が特徴でしたが、このクルマは機能性を保ちつつ、どこか『おもちゃ的』な魅力も感じさせる仕上がりになっています。これは新たなユーザーを取ることを目的とした戦略でしょう。

与えられた条件の中で魅力を引き出す

パッケージというのは、通常デザイン業務が始まる前におおよそ決まるものであり、与えられた条件の中で魅力を引き出すのが現代カーデザイナーの役割です。

ランクルFJでは、長いオーバーハングを処理するためにバンパーとグリルをしっかり段差をつけた構成とし、サイドビューでの軽快さを最大限に引き出しています。仮に兄貴分の『ランクル250』のような一体感の強い処理をしてしまうと、途端に重く見えてしまうでしょう。

さらにプランビュー(上から見た形)でも十分な後退角が与えられており、斜め前から見た際のスタンスの良さも確保されています。

また、全高はランクル250よりも高いのですが、これは後席の足元スペースが限られる分、居住性を高さで補っていると推測できます。この『高すぎる』全高もデザイン上は不利ですが、後述するサイコロモチーフによってルーフを絞り込むことで、リアビューでも間延びせず、どっしりとした安定感のあるスタンスを実現しています。

もしルーフが絞り込んでなかったら、かなりヒョロ高いリアビューになっていたはずで、ここも不利なパッケージをどう処理するかというデザイナーの技が感じられるポイントですね。

『サイコロ』がデザインテーマ

公開されている開発初期のスケッチを見ると、四角を面取りした、まるでサイコロのようなクルマが描かれています。これがキースケッチなのでしょう。

このような発想自体はラフスケッチでは珍しくありませんが、それを高い完成度でレンダリングまで持っていっている点に、このデザイン案の本気度を感じます。以前も触れましたが、トヨタは世界でも屈指の『造形の引き出し』を持つメーカーであり、こうした自由度の高い検討ができる環境こそが強みだと改めて感じさせられます。

全くパッケージが異なるレンダリング。このスケッチにトヨタデザインにおける『引き出しの多さ』の理由が詰まっている気がします。
全くパッケージが異なるレンダリング。このスケッチにトヨタデザインにおける『引き出しの多さ』の理由が詰まっている気がします。    トヨタ自動車

このサイコロモチーフは、市販車のランクルFJでは主にキャビン周りに色濃く反映されています。特にリアビューは、まさにキースケッチそのもの。サイドビューではルーフ後端が折れて絞られ、プランビューでも後方が同様に絞られた立体を、リアゲートで縦にスパッと切った構成になっています。このクルマのデザインで、最も注目すべき部位でしょう。

またフロントガラス周辺も同様の処理がなされており、キャビン全体として強い『サイコロ感』を維持。さらにこの面取りの考え方はフロントの顔周りやボディ下部にも展開され、デザイン全体に高い統一感を与えています。

通常はパッケージに沿ってスケッチを展開することが多い中で、ランクルFJはそれとは異なるアプローチを取っており、デザインプロセスとしても非常に参考になる1台だと感じました。

記事に関わった人々

  • 執筆

    渕野健太郎

    Kentaro Fuchino

    プロダクトデザイナー兼カーデザインジャーナリスト。福岡県出身。日本大学芸術学部卒業後、富士重工業株式会社(現、株式会社SUBARU)にカーデザイナーとして入社。約20年の間に様々な車をデザインする中で、車と社会との関わりをより意識するようになる。主観的になりがちなカーデザインを分かりやすく解説、時には問題定義、さらにはデザイン提案まで行うマルチプレイヤーを目指している。

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