ボルボが作るEV「ボルボらしい」? ボルボC40リチャージに試乗 そもそもボルボらしさとは

公開 : 2022.03.18 19:05

試乗 ボルボっぽくない乗り味

コンセプトやハードウェアはボルボらしさに満ち溢れたC40リチャージだが、実際に運転すると頭の中に「?」がぐるぐると回って情報処理が追い付かなくなった。

言葉を選ばずに言うと「乗り味がボルボっぽくない」のである。

ボルボC40リチャージは、近代ボルボの操舵感覚と異なると筆者。どこか人工的なフレーバーがただよう。
ボルボC40リチャージは、近代ボルボの操舵感覚と異なると筆者。どこか人工的なフレーバーがただよう。

ボルボといえば伝統的におっとりした同乗者にやさしい乗り味が特徴だ。現行「XC90」からはじまった新世代ではその感覚が薄まったとはいえ、ロングドライブの供にするとゆったりした乗り味やシャープ過ぎない操縦性などによる疲労の少なさに驚く。

ドライビングプレジャーを追求するというよりは、ドライバーに寄り添う新鮮な空気のような存在といっていいだろう。

それがボルボらしい動的性能である。

しかしながら、C40リチャージはちょっと……いや、かなり違う。たとえば走り出して1つ目の交差点を曲がるとき、同じプラットフォームを使うXC40のステアフィールは軽快で澄んだ水のようにスッキリとしたものだ。60系や90系も今ではそうなっている。

しかしC40リチャージはやや重めであると同時に、操舵感を主張する(ハンドルを切った量に応じて微妙な変化がある)など、どこか人工的なフレーバーのような感触。

車両設定でハンドル操舵力を重めにすると人工的な感覚は消えるが、XC40のような軽快でスッキリとした感じではない。

それは上下動の多い乗り心地や、機敏さを重視したパワートレインにも言えるのだ。

らしくない味付け 明確な理由が

試乗車のパワートレインは「ツインモーター」と呼ぶ前後にモーターを搭載したAWDで、合計出力はなんと408ps。

停止状態から100km/hまでの加速に要する時間はわずか4.7秒という驚くほどの俊足で、それはこのクラスのEVでは最速を誇る。

航続距離を考慮し、空力特性を向上させるルーフを採用。抗力をへらすために、ルーフ/テールゲートに2つのスポイラーを設置。複合サイクルで2%航続距離が伸びるという。
航続距離を考慮し、空力特性を向上させるルーフを採用。抗力をへらすために、ルーフ/テールゲートに2つのスポイラーを設置。複合サイクルで2%航続距離が伸びるという。

アクセルを踏み込むと間髪入れず加速が始まる応答性も、加速力も、そして加速の伸び感もとんでもないレベル。

不用意にアクセルを踏み込むと、まるで「逆急ブレーキ」のように同乗者を急激な加速Gが襲って首を持っていかれるほどである。もしも手に飲み物を持っていたら、間違いなくこぼすだろう。

加速力と刺激は素晴らしいが、ボルボらしくはないのだ。どうしてこんな味付けが施されているのだろうか?

実は、明確な答えがある。

ボルボは最初のEVを送り出すにあたり、ボルボであることよりもEVであることを主張したのだ。

つまり、ドライバーと同乗者に寄り添うようなボルボらしい感覚よりも、瞬発力を兼ね備えた力強い加速というモーターならではの特徴を重視したのである。

EVとしてエンジン車にはない強みを明確にし、それをEVならではの魅力として消費者にアピールしようというのである。

何を隠そう、そういった戦略はボルボだけがとっているわけではない。

たとえばメルセデス・ベンツは最初の量産EVである「EQC」で過激な加速をアピールしつつ、次に登場した「EQA」では加速をマイルドにしつつ小さなバッテリーで航続距離を延ばす実用方向に振ってきた。

EQCはEVとしてのインパクトに焦点をあてたクルマつくりだったのだ。

おそらくボルボも、今後登場するEVは過激さを潜め、マイルドでボルボ車らしい味付けとしてくることだろう。

C40リチャージはボルボのEVの方向性というよりは、最初のEVとしてのアドバルーン的な存在と考えるとしっくりくる。

筆者はC40リチャージの過激な味付けのパワートレインは「ボルボというよりも『ポールスター』っぽい」と感じた。

そして、そんなパワートレイン自体が「細かい制御を除き『ポールスター2』と同じもの」と聞けば、妙に納得である。

記事に関わった人々

  • 執筆

    工藤貴宏

    Takahiro Kudo

    1976年生まれ。保育園に入る頃にはクルマが好きで、小学生で自動車雑誌を読み始める。大学の時のアルバイトをきっかけに自動車雑誌編集者となり、気が付けばフリーランスの自動車ライターに。はじめて買ったクルマはS13型のシルビア、もちろんターボでMT。妻に内緒でスポーツカーを購入する前科2犯。やっぱりバレてそのたびに反省するものの、反省が長く続かないのが悩み。
  • 撮影

    宮澤佳久

    Yoshihisa Miyazawa

    1963年生まれ。日大芸術学部写真学科を卒業後、スタジオ、個人写真家の助手を経て、1989年に独立。人物撮影を中心に、雑誌/広告/カタログ/ウェブ媒体などで撮影。大のクルマ好きでありながら、仕事柄、荷物が多く積める実用車ばかり乗り継いできた。遅咲きデビューの自動車専門誌。多様な被写体を撮ってきた経験を活かしつつ、老体に鞭を打ち日々奮闘中。

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