カリフォルニアン・ポルシェ 356と911(930型/964型) スピードスター3台を乗り比べ 後編

公開 : 2022.08.06 07:06  更新 : 2022.08.06 10:38

あらゆる点で930型より優れる964型

パワステのないステアリングは、コミュニケーション力が豊か。リアエンジンのモデルとしては重めなものの、正確に反応する。

3.2Lのフラット6は、スピードスターの喜び。グレートブリテン島の南部、サセックス・ウィールドの原野に排気音がこだまする。G50型と呼ばれる5速MTも操作が楽しい。シフトレバーのストロークは長いが、オイリーな質感でタイトにゲート間を動かせる。

ポルシェ911 スピードスター(964型/1992〜1993年/北米仕様)
ポルシェ911 スピードスター(964型/1992〜1993年/北米仕様)

世代の新しい964型のスピードスターは、更に洗練されている。そもそも964型の911自体が従来から大進化を遂げており、サスペンションには前後ともコイルスプリングが与えられている。

スピードスターでも、あらゆる点で930型より優れている。精彩に欠ける4速ティプトロを除いて。

ステアリングホイールは軽く、スピード上昇と同時に手応えが増していく。乗り心地はしなやかでありつつ、高速域での姿勢制御は優秀。ボディ剛性も明らかに高い。

964型のスピードスターは、大通りを流すタイプかと想像していたが、間違いだった。ずっと運転が楽しく、スタイリングも魅惑的だ。

英国の夏には雨がつきもので、取材中は3台とも慌ててフードを被せる場面が何度かあった。バスタブにならないよう、356ではファブリック製の、930型と964型では樹脂製のトノカバーを手で開いて、身体を濡らしながら。

雨がちな地域で楽しむなら、カブリオレを選ぶ方が正解だろう。スピードスターは、本来は純粋にオープンドライブの喜びに浸るために作られている。実用性は二の次といえる。

レス・イズ・モアを体現した356 スピードスター

そして、その初代の356 スピードスター。車内は至ってシンプル。3スポークのステアリングホイールは、純正品ではないようだ。

クロームメッキで縁取られた3枚のメーターと、幾つかのスイッチがダッシュボードに並ぶ。ラバー・マットがフロアを覆う。ドアは驚くほど軽いが、シャットラインへきれいに閉まる。車内は質素でも、すべての操作系には一貫した質感が備わっている。

ブラックのポルシェ356 A スピードスターとシルバーのポルシェ911 カレラ3.2 スピードスター(930型)
ブラックのポルシェ356 A スピードスターとシルバーのポルシェ911 カレラ3.2 スピードスター(930型)

今回の例では、水平対向4気筒エンジンが1.9Lへ拡大されているだけあって、70年前のオリジナルより遥かに威勢良く走る。エグゾーストノートも、3台の中では最も大きい。5000rpmに迫るとエッジの効いたトーンが高まり、聞き惚れてしまう。

レッドラインは6500rpm。少し引っかかりのある、感触の曖昧なシフトレバーを倒す。

現代的なタイヤを履いており、車重794kg程度のスピードスターにはグリップ力が有り余る。そいれでも、軽くダイレクトなステアリングを傾けると、興奮が湧き出てくる。減衰力特性は素晴らしく、ボディ剛性にも不足は感じられない。

現在の価値で、40万ポンド(約6680万円)以上もするクラシック・ポルシェへ、操る自信を与えてくれる。レス・イズ・モアという思想を、唯一体現したスピードスターであることを実感する。

930と964も素晴らしいポルシェではある。だが、どこかトリビュート・バンドのような印象が否めなかった。オリジナルの純粋さには、及ぶことができないようだ。

協力:ポルシェ・クラブGB、パラゴン社

記事に関わった人々

  • 執筆

    サイモン・ハックナル

    Simon Hucknall

    英国編集部ライター
  • 撮影

    リュク・レーシー

    Luc Lacey

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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