ジャガーEタイプxフォード・ギャラクシー 8.5L V8エンジンのイーガル 忘れられない衝撃 前編

公開 : 2022.09.10 07:05

ジャガーの名車、Eタイプのフロントに納まるのはフォードのビッグブロック。稀代のレーシングカーを英国編集部がご紹介します。

ジャガーのシャシーにフォードのエンジン

この記事上では、衝撃的なサウンドをお伝えできないのが残念。ジャガーEタイプに期待する、滑らかで上品なエグゾーストノートは聞こえない。アメリカンV8らしい、バリバリという轟音が周囲を包む。アイドリング状態でも野蛮極まりない。

膨らんだフェンダーがグラマラス。ナンバーは付いているから、完全なロードリーガルらしい。グレートブリテン島の南部、サセックス州の田園地帯に流れる平穏を著しく乱している。

ジャガーEタイプ・イーガル(1964年/英国仕様)
ジャガーEタイプ・イーガル(1964年/英国仕様)

見た目やうるささと比較して、想像ほど運転が難しくないことにも驚く。クラッチペダルは重く反応は鋭いものの、急に繋がるような扱いにくさはない。ギアの回転数を調整してくれるシンクロメッシュが備わった、4速MTも変速しやすい。

サーボレスのブレーキは、温度が上昇すれば良く効く。すべての操作系が調和していて、ドライバーに優しい。

唯一、質実剛健なステアリングホイールはしっかり握っている必要がある。ワイドなフロントタイヤが、ワダチに沿って右往左往しようとする。

このワイルドなEタイプは、イーガル(Egal)と呼ばれている。EタイプのEに、ギャラクシー(エンジン名)のガルを組み合わせた造語だ。1960年代に、レーシングカーとして制作されている。

ジャガーのシャシーに、フォードのV型8気筒エンジンが搭載されている。排気量は本来7.0Lだったが、近年にアメリカで受けたレストア時に、8.5Lへボアアップされている。ダイナモテストでは、608psと82.8kg-mを発揮したという。

素晴らしく病みつきになるほど速い

他の道路利用者がいなくなるのを見計らって、アクセルペダルを僅かに傾ける。イーガルが勢いよくダッシュする。選んでいるギアは関係ない。反応は即時的で、あっという間に遠くでぼやけていた先行車両へ追いつく。思わず大笑いしてしまう。

車内は轟音で満たされ、低回転域に沈んでいない限り会話は難しい。信じられないほど素晴らしく、病みつきになるほど速い。公道では上澄みしか味わえない。解き放つには利用されなくなった飛行場と、狂気じみた勇気が必要そうだ。

ジャガーEタイプ・イーガル(1964年/英国仕様)
ジャガーEタイプ・イーガル(1964年/英国仕様)

イーガルを発案したのは、ロブ・ベック氏とジェフ・リチャードソン氏という2人。ベックは第二次大戦時にパイロットを務め、退役後に絵画の額縁を制作するビジネスを立ち上げた。世界的な評判を獲得し、英国王室御用達にもなったという。

事業で成功を掴んだベックは、以前から好きだったジャガーへの情熱を思う存分発揮させた。彼の叔父に、英国ミッドランド自動車クラブのメンバーだった、レスリー・ウィルソン氏がいたことも影響を与えた。

「叔父のベックはジャガー・オーナーとして、ちょっとした記録保持者でしょうね。公道用とサーキット用、沢山のクルマを所有していました。ある人物のコレクションを、丸ごと買い取るほど」。と、甥のアラン・ブルックス氏が笑う。

「投資になると考え、ガレージにコレクションを保管していました。でも、価格が上昇する前に手放してしまったようです。仕事を引退したタイミングで」

記事に関わった人々

  • 執筆

    ジェームズ・ページ

    James Page

    英国編集部ライター
  • 撮影

    リュク・レーシー

    Luc Lacey

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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