完璧なスピリット BMW M635 CSi(E24)とBMW M5(E28) 1980年代の傑作Mモデル 前編

公開 : 2022.10.08 07:05

マニアの心をくすぐった控えめな差別化

そこへ組み合わされたトランスミッションは、クロースレシオ化されたゲトラグ社製の5速マニュアル。ブレーキはフロントにベンチレーテッド・ディスクを装備し、ABSと、リアにはリミテッドスリップ・デフも搭載している。

タイヤはミシュランTRXメトリック。BBSのリムが別体となったマルチピース・アルミホイールが容姿を引き締めた。流線型とはいいにくい6シリーズは空気抵抗が低くなく、Cd値は0.39もある。それでも、M635 CSiの最高速度は254km/hに届いた。

BMW M635 CSi(E24型/1983〜1989年/英国仕様)
BMW M635 CSi(E24型/1983〜1989年/英国仕様)

そんなM635 CSiが発表されたのは1983年のフランクフルト・モーターショー。ベロア内装の現地価格は、8万9000マルクだった。

右ハンドル仕様も追加され、英国へは1985年から正式に導入。エアコンとサンルーフ、レザー内装を装備し、通常の6シリーズ・クーペより7000ポンド高い価格が与えられた。V型12気筒のジャガーXJ-Sより、1万ポンドも上回った。

僅かに広げられたフェンダーや小さなスポイラー、3色のMエンブレム以外、外観上の目立った差別化は得ていなかったが、それがマニアの心をくすぐった。ポルシェフェラーリのトップモデルに対抗できるBMWとして、財布の大きいドライバーを惹きつけた。

E9型3.0 CSLの後継モデル的に、E24型6シリーズ・クーペを仕上げたBMWモータースポーツ社が、次に目を向けたのはE28型5シリーズ。1985年のアムステルダム・モーターショーでM5が発表されると、これも小さくない関心を集めた。

当時は世界最速の4ドアサルーン

発表時には25台が納車済みで、初期の限定モデルとしてBMWモータースポーツ社が独自に商談を進めたらしい。大人4名がゆったり座れる車内に、おしとやかなプロポーションを持つ4ドアサルーンは、ひと回り大きいM635 CSiより動的能力も高かった。

サスペンションやパワートレインなど、ボディの内側は基本的にM635 CSiと共通。アンチロールバーは太くなり、バッテリーは荷室側に移設され、当時は世界最速の4ドアサルーンでもあった。

BMW M5(E28型/1984〜1988年/英国仕様)
BMW M5(E28型/1984〜1988年/英国仕様)

フロントタイヤのネガティブキャンバーと、セミトレーリングアームが支えるリアのポジティブキャンバーによって、コーナリング時のタイヤは路面に対し垂直を維持。ややフロントが重かったが、優れた運動神経を披露した。

そんなE28型の初代M5は、1989年までに2241台しか生産されておらず、BMWの量産モデルとしてはかなり希少。M635 CSiも5855台で、M5より多いとはいえ貴重なモデルといっていい。

さらに右ハンドル車は数が少ない。M635 CSiは102台。M5は187台となっている。

今回の2台を持ち込んでくれたのは、デビッド・ラポポート氏。金額の折り合いが付けば、M5は売却しても良いらしい。「M6(M635 CSi)の方が好きですね」。と本音を明かす。

「自分の考えや年齢には、M6の方が合っています。純正のレカロシートは、M5より快適ですしね。73歳なので、コレクションを減らそうと考えているんです。距離の浅いポルシェのタルガを買ったばかりなんですが」

といいながら、この2台もCOVID-19のロックダウン中に購入したらしい。

この続きは後編にて。

記事に関わった人々

  • 執筆

    マーティン・バックリー

    Martin Buckley

    英国編集部ライター
  • 撮影

    リュク・レーシー

    Luc Lacey

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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