イーグルE-タイプ・ロー・ドラッグ・クーペ

■どんなクルマ?

英イーグル社の手によって生まれ変わったジャガーE-タイプを一言で説明すると、’現代の知恵を投入したクラシックカー’ とでも言うべきだろうか。

これだけでは、ちと言葉不足。このクルマを制作するには18ヶ月もの年月を要し、一人で制作しようとするならば6000時間が掛かり、車両価格は£650,000(9,635万円)となっていることも重要事項として伝えておかなければなるまい。

1961年にジャガーE-タイプが初めて姿を表した時、多くの人がその言葉にならないほどの美しさに心を奪われたというのは、今でもたくさんの方がご存知のとおりだ。

そんな元祖E-タイプの唯一の欠点と言えば、レースに不向きだったということになる。だけれども、’レーシーである’ ことなど躍起になって強調せずとも、E-タイプはその美しさで揺るぎなき地位を築いたということは、今さら説明するほどのことでもないだろう。

だからといって、ジャガー空力部門のチーフであるマルコム・セイヤ氏は当時、空気抵抗の低減やボディ・リフトの対策を諦めていたわけではなかった。その当時のレース・シーンではフェラーリ250GTOがかなりの幅を効かせていただけに、なかなかE-タイプのレーシングカーが周囲の耳目を集める機会に恵まれなかっただけのことなのだ。

話を現代に戻そう。そんなE-タイプにモダンなアレンジを施したらどうなるのだろう、と思いを巡らせ始めたのが英国のメーカーであるイーグル。足元のスペースを広くするためにホイールベースをおおよそ5cm延長し、鼻先にジャガー製のクラシカルな直列6気筒ツイン・カムを収めたのが、今回テストを行うイーグルE-タイプというわけだ。

とはいっても、エンジンは ’あの頃’ のモノをそのまま載せたわけではない。4.7ℓまでボアアップされ、新たな燃料噴射装置が取り付けられている。またブロックはアルミニウム製に取って代わり、アウディの前進である戦前のアウトウニオンを手掛けたクロスウェイト&ガードナー社によって手が入れなおされた。

トランスミッションはイーグル製の合金ケースに5段ギア。ジャガー製のベルハウジングがクラッチを収め、プロペラ・シャフトを通じてアルミニウム製のリミテッド・スライディング・デフへと接続される。

サスペンションの基本はジャガー独自だけれど、こちらにもイーグルの手が加わることによって、フロントには可変スタビライザーやトーション・バー・スプリングのための専用設計のオーリンズ製ダンパーが奢られ、ブレーキはAPレーシング製のベンチレーテッド ’孔開き’ ディスクとなる。

■どんな感じ?

テスト前に下調べをしていた時のこと。スペック表を見る限り、筆者はとてつもなく獰猛なクルマなのだと思い込んでいた。350psの最高出力と、1038kgという乾燥重量の値を見てそう思うのも無理はない。

驚かされるのは、パワー・ステアリングやエアコン、快適なシートを含むうえで、紛れもなく軽量な車重を達成している点だ。内装もレースカーさながらにカーペットや内装材が毟り取られたりしているわけではなく、あくまで ’ちゃんと’ している。トラックに連れ出せば、キャビンのあまりの静かさに驚かされるほどだ。

ストレートシックスの奏でる音には深みがあり、いかにも英国の文化的な雰囲気だ。無闇矢鱈に吠えまわったりすることは一切ない。

ドライビング・ポジションは往年のE-タイプそのもの。ホイール・ベースは延長されたけれど、足元は適度にタイトになっている。かといって180cmを超える筆者でも窮屈すぎると感じることはなかった。

目の前にはタコ・メーターと速度計が並び、それ以外の計器類はセンター・コンソールに整然と鎮座する。( ”エアコン” と書かれたスイッチは新たに追加されたものだが)配置さえも、きちんとオリジナルの並びをフィーチャーしている。

メカニカルな音を耳にしながら、スコンと1速に入れる。軽いと言っても1トンは超えているけれど、トランスミッションが車重負けしていると感じることは一切ない。とにかく気持ちが良いのだ。クラッチには比較的重いのだが、だからといってやたらと重いわけでなく抑制されている。出し抜けに加速することはなく、まるでクルマそのものがエレガントであることに徹しているようだった。

しかし安心も束の間、ひとたび本線と合流すればエレガンスとは打って変わって、ストレート・シックスが牙を剥く。レブ・カウンターはまだ1500rpmを指しているというのに、オリジナルのE-タイプの面影は、もうそこにない。後方からはエグゾースト・ノートが唸り声をあげ、スーパーチャージャーなんぞ付いていないのに、まるで付いているかのような力強い加速をする。

小気味よくシフト・アップしていけば、幾度と無く火を入れたことのあるジャガー製のエンジンが、これほどまでに素晴らしい出来栄えだったのかと舌を巻く。レブ・リミットは5000rpmに設定されているが、4500rpmまで回した時点で、筆者はお腹いっぱいになった。

事実、ギアボックスやトラクションはアストン・マーティンの方がうわてなのだけれど、感覚としてはアストンのそれよりも遥かに気持ちがいい。

ただし仮にパワー・ステアリングはオプションだったとしたら、筆者は選ばないかもしれない。合金製のエンジンやパネルが用いられているゆえ、ノーズはさほど重くない。したがって、パワー・ステアリングが無くとも不便に感じるシチュエーションはあまりないし、転じてパワステのせいでナルディのウッド・トリムから伝わる情報量が少なすぎると感じることもあったくらいだ。

クラシカルなルックスとは対照的な、モダンなサスペンションの仕立てには惚れ惚れする。これこそは先祖様では決して味わえない逸品。徹底的にプッシュした時こそ、わずかにフロントが滑る傾向にあるし、アンダーステアは強めではあるが、狙ったラインを正確にトレースできる点においては頭ひとつ抜けている。

実際に自分の手でも運転を行うというイーグルのゼネラル・マネージャーに10ノッチほどリア・ダンパーを締めてもらった後は、見事にアンダーステアが姿を消し、終始見惚れてしまうような曲線を描きながら滑らせることができた。

もう少しわがままを言わせてもらうとしたら、フロントのスタビライザーを1ノッチ緩めれば、バランスは完璧になると思うのだが、もう一度車体をリフト・アップする時間は今回なかった。

仮に筆者好みのセッティングがなされたとしたら、昼夜問わずドリフトし続けるに違いない。

なにもトラック上を暴れまわるときだけが、このクルマの美味しいところではない。5速に固定して高速巡航をしていたとしても、キャビンは非常に静かで、パッセンジャーが隣にいるならば声を張り上げて会話する必要は全くない。

メーカー自身も、ヨーロッパや西海岸を旅することを提唱していることからも、このクルマがいかにグランド・ツアラーとそての素質を持っているかを伺い知ることができる。

■「買い」か?

£650,000(9,635万円)という価格相応かどうかは、この項では置いておくことにしよう。何よりのこのクルマの価値は、金銭的なものではなく、とても貴重であると言うことなのだから。

欲しいという人が増えれば、イーグルは増産も考えるという。けれど、多くとも ’一握り’ と言う点はくれぐれも注意しておいて頂きたい。

イーグルと言うメーカーを知れば知るほど、そしてイーグルの製品のスタンダードを知れば知るほど、筆者は吸い込まれるかのようにロー・ドラッグ・クーペに恋に落ちてしまったようだ。

オフィスへの帰路、どうしてここまでに心を奪われたのかを考えた。

どうやらそれは、このクルマのルックスとは関係はなく、イーグルが ”楽しいクルマづくりとは何ぞや” を骨の髄まで知り尽くし、それを見事に体現しているから、ということに尽きるようだ。

(アンドリュー・フランケル)

イーグルE-タイプ・ロー・ドラッグ・クーペ

価格 £650,000(1億900万円万円)
0-100km/h加速 4.5秒
乾燥重量 1038kg
エンジン 直列6気筒4700cc
最高出力 350ps/1800rpm
最大トルク 49.8kg-m/3600rpm
ギアボックス 5速マニュアル

 
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