290万円以下のクラシック・スポーツ MGC トライアンフTR4 A 1960年代の2台

公開 : 2023.02.26 07:06

ドライバーの腕を試すような能力

TR4 Aのリア側には、小さなベンチシートが備えられ、子どもなら座ることができる。サリートップと呼ばれるソフトトップは、フレーム付きのMGCより開閉が簡単。アルファ・ロメオ・スパイダーのように、片手での開閉は難しいが。

TR4はリジッドアクスルだが、改良版のTR4 Aはセミトレーリングアーム式へアップグレードされている。直接比較しなければ違いを体感しにくいが、ドライバーの腕を試すような能力を秘めている。

トライアンフTR4 A(1965〜1967年/北米仕様)
トライアンフTR4 A(1965〜1967年/北米仕様)

ステアリング・フィールは自然。手のひらには、タイヤへの入力によるキックバックが伝わるものの、シャシー特性はニュートラル。コーナーでは、意欲的にラインを選べる。

セパレートシャシー構造が生むスカットルシェイクも、筆者は気にならなかった。トライアンフの個性として受け入れられる。

乗り心地はフラットで硬め。背骨に振動が伝わるほどではないものの、モノコック構造で遥かに剛性の高いMGCほどサスペンションは仕事をこなせない。気がつけば、大きな路面のくぼみは避けて運転していた。

ロングストローク型の4気筒エンジンは、ノイズが大きく荒っぽい。ハイリフトカムが組まれ、低速域でのトルクと引き換えに高回転域でのパワーを得ている。ドライバーの気持ちを掴むように。

4速MTには、2速から4速で選択できるオーバードライブが備わり、実際は7速のようにも楽しめる。どんな場面にも適したギア比が用意されている。

穏やかで洗練された雰囲気を放つMGC

MGCへ乗り換えると、6気筒らしい滑らかなエンジンの質感へ惹かれる。反応はおおらかで曖昧だ。重たいフロントノーズは、タイトコーナーで外側へ膨らもうとするが、アクセルペダルの加減でテールを振り回すことも不可能ではない。

ただし、大きなステアリングホイールのロックトゥロックは3.5回転とスロー。素早く腕を動かす必要がある。

MGC(1967〜1969年/英国仕様)
MGC(1967〜1969年/英国仕様)

5000rpmまでしか回らないが、不満ない加速には3500rpmもあれば充分。反応がタイトとはいえないものの、シルキーな味わいのまま、低速域まで粘り強く対応してくれる。ロングなギア比を補うように。

0-97km/h加速は10.0秒。1967年当時の動力性能としては、不足ないものといえた。

2台とも握りやすい位置へシフトレバーが伸び、変速時にギアの回転数を合わせるシンクロメッシュは丈夫。リズミカルに次のギアを選べる。

スタイリングは甲乙つけがたい。TR4 Aのクリクリしたヘッドライトが心へ響く一方で、MGCのクリーンなボディラインも捨てがたい。ボンネットの膨らみや、MGBより大きなホイールも悪くない。

イタリア車やドイツ車が高価だった時代に、MGCは巡って来たチャンスを活かせなかった。少なくない小さな弱点は、修正されることもなかった。追い打ちをかけるように、優れた日産フェアレディZダットサン240Zが日本から北米へやってきた。

エンジンの印象は6気筒の方がベター。それを踏まえて、穏やかで洗練された雰囲気を放つMGCへ筆者は傾いてしまう。弱者を応援したくなる気持ちも加わって。

協力:サイモン・ナトール氏、ケン・ブリットン氏

記事に関わった人々

  • 執筆

    AUTOCAR UK

    Autocar UK

    世界最古の自動車雑誌「Autocar」(1895年創刊)の英国版。
  • 撮影

    マックス・エドレストン

    Max Edleston

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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