むき出しのオイルクーラー NSU 1000 TTS 1960年代のジャイアントキラー 後編

公開 : 2023.06.18 07:06

多くの人の記憶から消えてしまった、リアエンジンのNSU 1000。最終進化形といえるTTSを英国編集部がご紹介します。

バンパーの下にオイルクーラーがむき出し

ご登場願ったマヌエル・フェラオン氏のNSU 1000 TTSは1969年式。モータースポーツへ参戦した履歴は、残っていないらしい。

新車時にポルトガル植民地時代のモザンビークで販売され、その後にポルトガル北部へ住む女性が購入。2020年から、現オーナーの所有となった。

NSU 1000 TTS(1969年式/欧州仕様)
NSU 1000 TTS(1969年式/欧州仕様)

4灯ヘッドライトの眼光が鋭いフロントは、バンパーの下にオイルクーラーがむき出しで、かなりアグレッシブ。しかし、どこか可愛らしく感じられることも間違いない。

リアのエンジンカバーは放熱目的で浮かされているが、実際のところ効果は余りなかったとか。燃料パイプの不具合でしばしば出火する可能性があり、すぐに消せるためという別の理由もあった。ダウンフォースは期待できない。

やる気に満ちたアバルト風の見た目こそ、最大の効果だったといえるかもしれない。むしろ、フェラオンの1000 TTSでは、エンジンカバーをきちんと閉めることができない。ウェーバー・キャブレターとエアクリーナー・ボックスが、確実に飛び出ている。

停まっていても、容姿は間違いなくレーシー。反面、ドアを開いてみるとインテリアはずっと大人しい。スピードメーターの他に、レッドラインの指定がないタコメーターが組まれている程度。ほかにあるメーターは、燃料計だけだ。

3スポークのステアリングホイールを除いて、レーシングカーのホモロゲーション・マシンだと主張する特長はない。シートもかなり平面的。座り心地は良いけれど。

驚くほど滑らかに吹け上がる4気筒エンジン

運転席からの視界は、全方向で良好。広いガラスエリアが、ポルトガルの太陽を盛大に車内へ届ける。ドライビングポジションは起き気味で、座面の位置は高め。3枚のペダルの間隔が広く、足を完全に横へ倒さない限り、ヒール&トウでのシフトダウンは難しい。

エンジンの始動には、少々のコツがいる。事前にアクセルペダルを数回踏んでガソリンを送るのだが、踏む回数が多いと濃くなりすぎてしまう。

NSU 1000 TTS(1969年式/欧州仕様)
NSU 1000 TTS(1969年式/欧州仕様)

アイドリング時から、ドライな排気音がやかましい。発進時には、唸るような轟音へクレッシェンドする。

渋滞を想定した設計ではない。低速域でのトルクが低く、かなり気を使う。アクセルペダルを巧みに操らないとエンストしかねないが、ゆっくり走っていても、かなりの騒音を撒き散らす。周囲のドライバーから、当惑するような視線が向けられる。

リスボンの高速道路へ合流すると、1000 TTSは秘めたエネルギーを発散する。4気筒エンジンは爆音を放ちながらも、驚くほど滑らかに吹け上がる。はた迷惑なほどうるさいが、許せるようになる。

リアエンジンらしくマニュアルのシフトゲートは曖昧で、シフトレバーの感触はゴムのようにあやふや。1速が見つけにくく、丁寧に扱う必要があるが、2速以降は想像ほどの厄介さはない。

次のギアへつながると、再び刺激的な時間が待っている。ギア比は、サーキットでの活躍とは裏腹に比較的ロング。現実世界での運転と相性は悪くない。

記事に関わった人々

  • 執筆

    リチャード・ヘーゼルタイン

    Richard Heseltine

    英国編集部ライター
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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