戦前にFFモノコックという先進性 シトロエン・トラクシオン・アバン【UK中古車ガイド】(1) ボディの亀裂へご用心

公開 : 2026.07.18 17:45

前輪駆動にモノコックを採用し、20世紀の量産車として高い評価を与えるべき1台がシトロエン・トラクシオン・アバン。優れた走りで日常性も高いクラシックを、UK編集部が振り返ります。

先進性へ驚かずにいられない戦前の傑作

20世紀の量産車として、最高評価を与えるべき1台が、シトロエン・トラクシオン・アバン。前輪駆動にモノコック構造、ウイッシュボーンとトーションバーを用いたサスペンション、ダンパーを備えたエンジンマウントなど、先進性へ驚かずにいられない。

3速MTをエンジン前方へ配置したフロントミドシップで、優れた操縦性と快適性を両立。戦前のお手頃なファミリーカーでありながら、他社を遥かに凌駕する内容にあった。発売は1934年だが、1957年まで生産が続いたことにも納得できる。

シトロエン・トラクシオン・アバン(1934〜1957年/フランス仕様)
シトロエン・トラクシオン・アバン(1934〜1957年/フランス仕様)    ジャック・ハリソン(Jack Harrison)

4気筒エンジンには、オーバーヘッドバルブを採用。ドライブシャフトには、現在のCVジョイントへ通じる機構も組まれた。フランス・ジャベルの工場だけでなく、ベルギーや英国でも生産され、コラムシフトの商用バン、コメルシアーレも作られている。

英国では、ロンドンの西へ位置するスラウ工場で1934年に生産は始まり、計2万台がラインオフ。ボディパネルはフランスから輸入されたが、レザーやウッドなどの内装素材にメーター、スイッチ類などは、英国製が積極的に用いられた。

課題はモノコック構造の亀裂と腐食

モノコック構造のボディ前方からアームが伸び、エンジンとMT、サスペンションを支持。堅牢性は高かったが、初期の例には負荷による亀裂も生じている。生産が進むにつれ改良されたが、現存例でも腐食が足を引っ張り、ヒビが見られる例はある。

この亀裂と腐食の対策が、トラクシオン・アバンを維持する上での最大の課題。戦前に設計されたクルマだから、頻繁な点検整備も必要になる。特にグリスアップは重要で、1600km毎に26か所。エンジンオイル交換も、同等の距離で実施した方が望ましい。

シトロエン・トラクシオン・アバン(1934〜1957年/フランス仕様)
シトロエン・トラクシオン・アバン(1934〜1957年/フランス仕様)    ジャック・ハリソン(Jack Harrison)

スタイリングを手掛けたのは、フラミニオ・ベルトーニ氏。風洞実験を経て、滑らかなフォルムが導かれている。設計を担当したのは、アンドレ・ルフェーブル氏。創業者のアンドレ・シトロエン氏率いる優秀なチームによる、傑作といっていい。

一般的なボディは、今回の例のようなレジェール・サルーン。ロングホイールベースのノルマーレの他、スタイリッシュなロードスターやクーペなども存在する。ダブルシェブロンが誇らしい、クロームメッキ・グリルは標準。サンルーフはオプションだった。

オーナーの意見を聞いてみる

「妻の目を盗んで、2019年にレジェールを買いました。でも、彼女も気に入ってくれましたけどね」。今回の車両を所有する、サイモン・ロイド氏が笑いながら振り返る。

「ロンドンのとあるクラシックカー・ディーラに、トラクシオン・アバンが並んでいて、以前から気になっていたんです。これは1952年式でフランス製。走行距離は6万9000kmで、英国には1990年に来ています」

シトロエン・トラクシオン・アバン(1934〜1957年/フランス仕様)
シトロエン・トラクシオン・アバン(1934〜1957年/フランス仕様)    ジャック・ハリソン(Jack Harrison)

「内装はオリジナルで、ヒーターは当時物の社外品。エンジンやMTはオーバーホール済みで、ボディは部分的に再塗装してあります。フランスまで走ったこともありますが、扱いやすくて乗り心地は抜群。現代の交通にも対応でき、運転は本当に楽しいです」

「丁寧な変速は必要ですが、ダブルクラッチを挟めば噛みません。いつも整備をお願いしているのは、専門店のデボン・トラクションズ。素晴らしい仕事をしてくれます」

記事に関わった人々

  • 執筆

    マルコム・マッケイ

    Malcolm Mckay

    英国編集部ライター
  • 撮影

    ジャック・ハリソン

    JACK HARRISON

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋けんじ

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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