現実を見る 合成燃料「eフューエル」は排出量削減に使えるの? 厳しい現実、大きな課題

公開 : 2023.06.14 06:05

カーボンニュートラル燃料と言われる「eフューエル」は、本当に気候変動対策に効果があるのか。エンジン車を継続できる切り札とも言われますが、製造時に大量のエネルギーを必要とするなど、課題や疑問は残されたままです。

eフューエルは特効薬ではない 一番の課題は?

英国では2030年の純エンジン車の新車販売禁止が近づく中、電動化と並んで代替燃料も排出量削減に効果があるのではないかと、疑問が投げかけられている。

英国の交通特別委員会(Transport Select Committee)は、2035年からバッテリーEVへの移行を事実上義務付けることで、政府が「1つのものにすべてを賭けている」として非難した。

エンジン車を存続させる解決策と期待されるeフューエルだが、現実は厳しい。
エンジン車を存続させる解決策と期待されるeフューエルだが、現実は厳しい。

同委員会は報告書の中で、EV充電インフラの不備や原材料の不足を挙げ、EVへのスムーズな移行を遅らせたり、妨げたりする可能性があると指摘。「2030年(2035年、2040年、2050年)の崖っぷちが迫る中、現実は厳しい」と述べている。また、英国政府の交通戦略について「既存の(ガソリンとディーゼルの)車両に対処することが、英国の気候目標を達成する上で決定的な意味を持つだろう」とし、「現実を確認」するよう求めた。

英国では現在、2030年以降、純ガソリン車と純ディーゼル車の新車販売を禁止する計画となっている。まだはっきりと定義されていない「著しいゼロ・エミッション能力(SZEC)」を持つハイブリッド車については、5年間の執行猶予が与えられるが、変更される可能性がある。

欧州議会も同様の経過をたどることになった。欧州議会は、2035年までに排出ガス中に含まれるCO2を100%削減することを義務付け、エンジン車を禁止する法案をほぼ可決した。しかし、ドイツ、イタリアなど一部のEU加盟国が反発し、合成燃料「eフューエル」を使用する場合に限り、エンジン車販売を認める方針となった。eフューエルは製造時に大気中のCO2を回収するため、カーボンニュートラルとされている。

EUを離れた英国もこれに追随し、2030年以降もカーボンニュートラルなエンジン車の販売を認めるのかとの質問に対し、グラント・シャップス英国エネルギー安全保障・ネットゼロ大臣は、認めないと答えた。「英国は、EUよりもこの分野では常に前向きな姿勢をとってきた」という。

カーボンニュートラル燃料の製造には、深刻な懸念がある。化石燃料と同様、燃やすと有毒なCO(一酸化炭素)やNOx(窒素酸化物)が発生し、地域社会に健康被害をもたらす。eフューエルの場合、原料となる水素を生産するために、膨大なエネルギーが必要となる。

国際エネルギー機関の2019年の報告書によると、現在の工業用水素の生産量をすべて電気で賄うと、3600TWhの電力需要が発生する。昨年のEUの全エネルギー生産量よりも約1000TWh多く、そのうち再生可能エネルギーによる生産量はわずか39.4%に過ぎない。これは、現時点での水素の生産量によるもので、将来的なeフューエルの大量製造に必要な量を含めていない。

環境ロビー団体Transport & Environmentのeモビリティ・アナリストであるヨアン・ジンバート氏は、2022年10月に、乗用車や商用車にeフューエルを使用すると、「経済の他の部分に必要とされる再生可能電力を吸い上げてしまう」リスクがあると述べた。同氏は、eフューエルはまだバッテリーによる脱炭素化が難しい飛行機や船舶に転用すべきだとしている。

記事に関わった人々

  • 執筆

    チャーリー・マーティン

    Charlie Martin

    英国編集部ビジネス担当記者。英ウィンチェスター大学で歴史を学び、20世紀の欧州におけるモビリティを専門に研究していた。2022年にAUTOCARに参加。
  • 翻訳

    林汰久也

    Takuya Hayashi

    平成4年生まれ。テレビゲームで自動車の運転を覚えた名古屋人。ひょんなことから脱サラし、自動車メディアで翻訳記事を書くことに。無鉄砲にも令和5年から【自動車ライター】を名乗る。「誰も傷つけない」「同年代のクルマ好きを増やす」をモットーにしている。イチゴとトマトとイクラが大好物。

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