【重いからダメ、ではない】最新のM5に乗って考える『BMW M観』とは何か?

公開 : 2025.05.29 12:05

モーターのアシストも受けつつ最高出力727psを発揮し、四輪駆動のパワートレインで、2.4tのボディを引っ張る新型『BMW M5』。以前試乗レポートを執筆した吉田拓生が、M5を通じて考えた『BMW M観』を語ります。

BMW M観はどこにあるのか?

強力なモーターのアシストも受けつつ達成した最高出力は727ps。そのパワーを4輪に伝えつつ、2.4トンのボディを引っ張る! その印象を踏まえ、筆者は2月に公開した新型BMW M5の試乗記で『BMW Mモデルとしての体裁は保てている』と書いた。

加速性能に対する制動力が十分であったように、動力的な辻褄は合っていた。それでもなお、多くのファンが期待していたようなモデルなのか? という疑問は残る。それはもちろん、各々の『BMW M観』次第なのだが。

昨年日本でも発売された新型BMW M5は、727psを発揮するプラグインハイブリッド。
昨年日本でも発売された新型BMW M5は、727psを発揮するプラグインハイブリッド。    山本佳吾

では、BMW M観とはどのようなものか?

それを理解するには歴史を遡る必要があるだろう。Mとはもちろんモータースポーツの頭文字である。1972年に『BMWモータースポーツ』として誕生したこの会社は、純粋なモータースポーツ部門だった。

そんな会社が初の市販モデルであるM1を産み落としたのは誕生から7年後のこと。ここで会社の形態に最初の変化が訪れているのだ。

だが多くのファンが想像するBMW Mモデルといえば、3シリーズがベースのM3だろう。1985年に発表されたホモロゲーションモデルは作り手の思惑以上の成果を上げている。

ツーリングカーレースの世界を席巻し、市販車も『カッコイイ箱車』のイメージを究極まで高めたものとして評価されているのだ。世代的に、直列6気筒を搭載するE36型にとどめを刺すという人もいるだろう。ともあれファンが想像するBMW Mの理想形が初期のM3にあるのではないだろうか。

競技から高性能へ、時代に沿った変化

E36型のM3のデビューとほぼ同じタイミングで、BMWモータースポーツは純粋なレース部門に戻り、新たに暖簾分けされた『BMW M』がスポーツモデルの生産を担うことになる。

実際この頃になると、レギュレーションの関係で市販車とレースカーの内容が乖離していった。その顕著な例が、市販車とは全く関係がない各社共通のパイプフレーム構造のシャシーを用いた、2000年以降のドイツツーリングカー選手権(DTM)だろう。

多くのファンが想像するBMW Mといえば、1985年に発表された3シリーズがベースのM3だろう。
多くのファンが想像するBMW Mといえば、1985年に発表された3シリーズがベースのM3だろう。    BMW

モータースポーツ規則の変化が、市販車と強く結びつけられていたMモデルの時代が終わり、2007年誕生のE92型M3はV8エンジンを搭載。一方のM5も直6からV8、そしてV10へとエンジンを拡大していった。

BMW Mモデルは電子制御システムの導入にも積極的で、その結果としてV10エンジン搭載のM5の車重は1.9トン弱にもなっていた。

サーキットのイメージも徐々に薄れ、BMW Mモデルは箱型ボディのスーパースポーツ車としての色が強まっていく。そして昨年デビューの7代目M5ではついに電動化モデルになっているのだ。

かつてBMW Mのエンジンは気筒毎スロットルを特徴としていたが、直噴が当たり前の現在ではそれもない。現行M5が搭載するS68ユニットもアルファベットSから始まる型番こそ真正Mユニットだが、その最大のトピックが排気系の取り回しというのは、少し寂しいと言わざるを得ない。

記事に関わった人々

  • 執筆

    吉田拓生

    Takuo Yoshida

    1972年生まれ。編集部員を経てモータリングライターとして独立。新旧あらゆるクルマの評価が得意。MGBとMGミジェット(レーシング)が趣味車。フィアット・パンダ4x4/メルセデスBクラスがアシグルマ。森に棲み、畑を耕し蜜蜂の世話をし、薪を割るカントリーライフの実践者でもあるため、農道のポルシェ(スバル・サンバー・トラック)を溺愛。
  • 撮影

    山本佳吾

    Keigo Yamamoto

    1975年大阪生まれ。阪神タイガースと鉄道とラリーが大好物。ちょっとだけ長い大学生活を経てフリーターに。日本初開催のWRC観戦をきっかけにカメラマンとなる。ここ数年はERCや欧州の国内選手権にまで手を出してしまい収拾がつかない模様。ラリー取材ついでの海外乗り鉄旅がもっぱらの楽しみ。格安航空券を見つけることが得意だが飛行機は苦手。
  • 編集

    平井大介

    Daisuke Hirai

    1973年生まれ。1997年にネコ・パブリッシングに新卒で入社し、カー・マガジン、ROSSO、SCUDERIA、ティーポなど、自動車趣味人のための雑誌、ムック編集を長年担当。ROSSOでは約3年、SCUDERIAは約13年編集長を務める。2024年8月1日より移籍し、AUTOCAR JAPANの編集長に就任。左ハンドル+マニュアルのイタリア車しか買ったことのない、偏ったクルマ趣味の持ち主。

関連テーマ

おすすめ記事

 

人気記事

        ×