【第10回】サイトウサトシのタイヤノハナシ~キャッププライの進化~

公開 : 2025.07.16 17:05

年がら年中タイヤのことばかり考えているサイトウサトシが、30年以上蓄積した知識やエピソードを惜しみなく披露するこのブログ。第10回は、キャッププライの働きと進化のお話です。

『せり上がり』を抑える大切なパーツ

10年以上前の話になりますが、某タイヤメーカーの実験施設見学をさせてもらった際に、タイヤを高速(たぶん250km/h以上だったと思います)で回転させるテストを見たことがあります。

タイヤが台上試験機に取り付けられ、高速回転するのですが、タイヤの外径が5~6cm膨らむように大きくなったのでした。

構造のメモは、筆者と、ピレリ社タイヤ設計責任者(当時)のマウリシオ・ボイオッキ氏との共作。
構造のメモは、筆者と、ピレリ社タイヤ設計責任者(当時)のマウリシオ・ボイオッキ氏との共作。    斎藤聡

解説のエンジニアの方は『せり上がり』と言っていましたが、確かにトレッド面が高速回転でせり上がる、そんなイメージです。それが自分の足元で日常的に起こっているかと思ったら、ちょっと寒くなりました。

皆さんもスピードの出し過ぎには気を付けましょう。

高速で走るタイヤは遠心力で外径が膨らむのです。外径が変わるほど膨らむということは、当然接地面積が少なくなるわけで、操縦安定性が悪くなるわけです。

このタイヤのせり上がりを抑え、高速走行でもタイヤの接地形状を保つのが、『ベルト』とか、『キャップレイヤー』と呼ばれるパーツの役割です。

タイヤの構造を簡単に紹介しておくと、カーカスと呼ばれる布製の骨格があり、この上にスチールベルトが2枚、斜め右向きと斜め左向きに配置されています。スチールベルトのハナシは、このコラムの1回目でやりましたが、スタンダードタイヤ以外の多くのタイヤには、このスチールベルトの上に『キャップレイヤー』とか『キャッププライ』、『0度ベルト』と呼ばれるパーツが搭載されています。

これは高速走行中のタイヤの形を正しく保つためのタガ(樽を押さえている鉄の輪)のようなもので、これによって高速操縦安定性を高めているのです。

キャップレイヤーの役割は『タガのようなもの』

最初のラジアルタイヤは、1946年にミシュランが特許(フランス国内)を取得した『ミシュランX』でした。ラジアル構造+補強ベルトで基本特許を取得して、1949年から市販が始まります。当時のラジアルタイヤはスチールベルトではなく、ゴムと帆布を層状に貼り合わせたものを使ったテキスタイルラジアルでした。

1960年代後半から70年代初頭になると、ベルトにスチールが使われるようになります。コンチネンタルのコンタクト・ラジアル、ピレリCN36(発売当時はテキスタイル)、ミシュランXASスチールベルテッドがこの頃登場しています。

アラミド(≒ケブラー)は初代ピレリP-ZEROで使用され、ランボルギーニ・カウンタック(アニバーサリー)などに採用。
アラミド(≒ケブラー)は初代ピレリP-ZEROで使用され、ランボルギーニカウンタック(アニバーサリー)などに採用。    ランボルギーニ

当時、自動車は急速に進化し、高性能化していきます。スチールベルトの採用もその対応の一環なのですが、1970年代半ばにはキャップレイヤーが採用され始めます。

キャップレイヤーの役割は『タガのようなもの』と書きました。ベルトの素材は当初はほぼナイロン(≒ポリアミド)でした。ナイロンは熱収縮性を持っているのが特徴です。タイヤの加硫工程(タイヤ製造の最終工程。タイヤに熱を加え、硫黄と結びつかせタイヤの弾性を高める)で熱せられたナイロンは収縮しようとして張力を発生します。

実際にはゴムにサンドイッチされたベルトなので、挟んだゴムが加硫によって硬く(弾性が高く)なるため変形はしませんが、この張力によって高速域でもタイヤの形が保たれるのです。

もちろん限界を超えればタイヤは膨張方向に変形します。超高速走行ではありませんが、タイヤの内圧が高くなってもタイヤのトレッド面が変形して接地面が少なくなることがあります。

以前、あるスポーツタイヤのサーキット試乗会で、3枠目くらいから「試乗車の(トヨタスープラの操縦性がおかしい」、「サスペンション回りが壊れたんじゃないか」といった声が上がったことがありました。

タイヤメーカーのスタッフもクルマをジャッキアップしてオイルのにじみをチェックしたり、ダンパーを取り外したりと大騒ぎになったのですが、結局その理由は、タイヤの空気圧の上がり過ぎでした。

後輪の空気圧が3.2kg/cm2くらいまで上がっていたのでした。

そんなことで操縦性が悪くなるの? と思われるかもしれませんが、1990年代くらいまでのタイヤ、特に低偏平な幅広タイヤ(といっても当時は255/40くらいだったと思いますが……)は、内圧が上がり過ぎるとトレッド面が凸型になってしまい、接地面積が極端に少なくなって、グリップもトラクションもはっきりと落ちてしまうというタイヤが少なくありませんでした。

件のスープラ用タイヤも、内圧を2.9kg/cm2まで下げたら、普通に乗りやすくなりました。スタッフに聞いたところ、サーキット走行ということで、あらかじめ空気圧を高めにセットしていたのだそうです。

そこまで極端に不安定にならなくても、オシリの当たりがムズムズするような落ちつかない不安な感じになったら、内圧を確認してみてください。

記事に関わった人々

  • 執筆 / 撮影

    斎藤聡

    1961年生まれ。学生時代に自動車雑誌アルバイト漬けの毎日を過ごしたのち、自動車雑誌編集部を経てモータージャーナリストとして独立。クルマを操ることの面白さを知り、以来研鑽の日々。守備範囲はEVから1000馬力オバーのチューニングカーまで。クルマを走らせるうちにタイヤの重要性を痛感。積極的にタイヤの試乗を行っている。その一方、某メーカー系ドライビングスクールインストラクターとしての経験は都合30年ほど。

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