グリップを作り出す2大要素 『粘着摩擦』と『ヒステリシス摩擦』の違いを理解する【サイトウサトシのタイヤノハナシ 第24回】

公開 : 2026.09.16 12:05

『ファンデルワールス力』とは?

一方、粘着摩擦はどんなグリップのメカニズムを持っているのでしょう。

粘着摩擦は、ゴムと路面の間で働く分子同士の引き合いです。『ファンデルワールス力』と呼ばれる力です。

粘着摩擦は、ゴムと路面の間で働く分子同士の引き合いのことをいいます。
粘着摩擦は、ゴムと路面の間で働く分子同士の引き合いのことをいいます。    平井大介

……また専門用語が出てきてしまいましたが、ちょっとだけ我慢してください。

ファンデルワールス力というコトバを調べると、『すべての原子や分子に働く非常に弱い引力(分子間力)で、例えばヤモリが、吸盤もないのにガラスや壁面にピタリと張り付くように登れるのは、足の裏と壁の分子間に働くファンデルワールス力を利用しているためです』なんて説明を見かけます。

これは微弱な摩擦力(≒グリップ力)ですが、ゴムと路面の間に起こるファンデルワールス力は、ちょっと特殊な作用が働きます。

ひき剥がす時に必要な力が、粘着摩擦の正体

ゴム分子は、とてもしなやかかつ柔軟なので、一見平らに見える路面の微小な凹凸にも隙間なく密着します。密着した瞬間、分子レベルでペタッと張り付く『結合』と、強引に引っ張られて引き剥がされる『破断』がものすごいスピードで繰り返されます。このひき剥がす時に必要な力が、粘着摩擦の正体です。

固体同士の接触と異なり、ゴムが路面に貼りつく時と剥がれる時では、エネルギーの使われ方が異なります。

張り付く時のエネルギーは分子間力で、事前にペタッと張り付きます。

ところが剥がす時には、単純に分子間力(ファンデルワールス力)に逆らうだけではありません。ゴムの分子が引っ張られて伸び、熱となってエネルギーを大量に放出(粘弾性変型)してしまうんです。

つまり、張り付くときよりも、引きはがす時の方が圧倒的に大きな力が必要になります。引きはがす時のエネルギーから、張り付く時のエネルギーをひいた差分が、『抵抗=摩擦力』となるのです。

セロテープが濡れた時と同じ

気温や路面温度が下がってゴムの柔軟性が低下すると、粘着摩擦は低くなります。

粘着摩擦を低下させるもっとも大きな要素は、雨です。

粘着摩擦を低下させるもっとも大きな要素は、雨です。
粘着摩擦を低下させるもっとも大きな要素は、雨です。    ブリヂストン

セロテープの粘着面に水を垂らすと唐突に粘着性がなくなってしまうのと同じで、ゴムと路面の分子間に水が入ると粘着摩擦はいきなり低下します。

ドライ路面の粘着摩擦とヒステリシス摩擦の割合は、うんと大雑把に言って8対2~6対4くらい。粘着摩擦のほうがグリップ成分としての割合が大きくなっています。

ところが雨が降って路面が濡れてしまうと、この割合は一気に逆転します。

しかも、ヒステリシス摩擦の絶対量は変わらないので、単純に粘着摩擦の減少分だけグリップ性能が悪くなるわけです。

これがウエットでタイヤが滑りやすくなる理由です。

記事に関わった人々

  • 執筆 / 撮影

    斎藤聡

    1961年生まれ。学生時代に自動車雑誌アルバイト漬けの毎日を過ごしたのち、自動車雑誌編集部を経てモータージャーナリストとして独立。クルマを操ることの面白さを知り、以来研鑽の日々。守備範囲はEVから1000馬力オーバーのチューニングカーまで。クルマを走らせるうちにタイヤの重要性を痛感。積極的にタイヤの試乗を行っている。その一方、某メーカー系ドライビングスクールインストラクターとしての経験は都合30年ほど。

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