世界で1番高価だったクルマ ロールス・ロイス・カマルグ(1) 1台の完成に半年を要す象徴

公開 : 2025.12.07 17:45

直近100年で最も物議を醸したロールス、カマルグ ラインオフまでに半年 マルティンへ託されたスタイリング 安心感と幸福感に満ちた移動体験 当時最も高価な量産車を、UK編集部が振り返る

直近の100年で最も物議を醸したロールス

直近の100年間で、最も物議を醸したロールス・ロイスといえば、カマルグだろう。第二次大戦後の同ブランドで初めて、国外のコーチビルダーがスタイリングを手掛けている。ヤード・ポンド法ではなく、メートル法で設計されたモデルとしても歴代初だった。

イタリアのピニンファリーナ社は、ロールス・ロイスと関わることを非常に喜んだ。破格の費用で契約が結ばれ、1台売れる毎のロイヤリティは、僅か1ポンドだったという。

ロールス・ロイス・カマルグ (1975〜1986年/英国仕様)
ロールス・ロイス・カマルグ (1975〜1986年/英国仕様)    マックス・エドレストン(Max Edleston)

カマルグは、フロントガラスが接着剤で固定された初のロールス・ロイス。サイドガラスはカーブを描き、エンジンには電子点火技術が用いられ、フロントマーカーの点灯には、最先端だった光ファイバーが用いられた。

1975年3月の発売時に設定された価格は、2万9250ポンド。リムジンのシルバーシャドーの2倍という高額で、世界で最も高価な量産モデルといえた。

ラインオフまでに半年を要した象徴

1971年にロールス・ロイスは経営破綻へ追い込まれ、収益性の高いモデルの創出が必至だった。起死回生を目指すブランドにおいて、カマルグは世界中の富裕層へアピールする、象徴的なモデルになった。

当時経営を率いたデイビッド・プラストウ氏は、遥かに高額でも顧客はロールス・ロイスを受け入れることを見抜いていた。前例ない価格でも、新モデルは売れると予想した。

ロールス・ロイス・カマルグ (1975〜1986年/英国仕様)
ロールス・ロイス・カマルグ (1975〜1986年/英国仕様)    マックス・エドレストン(Max Edleston)

果たして、カマルグの販売数は1980年にピークを迎え、98台が提供される。だが製造は簡単ではなく、1台がラインオフするまでに半年を要した。ボディを仕上げるのに1000時間が費やされ、納車前には240kmの走行テストにかけられた。

北米価格は、当時9万ドル。対照的に値ごろ感が生まれたことで、シルバーシャドーはカマルグの登場後、4割以上多く売れたとか。

マルティンへ託されたスタイリング

戦前から提携関係にあったピニンファリーナとロールス・ロイスだが、1969年にカマルグの契約は結ばれる。ベース車両として届けられたのは、2ドアのシルバーシャドー。在籍した若きデザイナー、パオロ・マルティン氏へ、新たなスタイリングは託された。

コードネームは「デルタ」で、6種類のデザイン案が提案され、最終的なサイズの決定はマルティンに一任される。シルバーシャドーより車内空間を広く取ることと、ラジエターグリルの基本デザインは崩さない、という条件は伴ったが。

ロールス・ロイス・カマルグ (1975〜1986年/英国仕様)
ロールス・ロイス・カマルグ (1975〜1986年/英国仕様)    マックス・エドレストン(Max Edleston)

当初は、サイドウインドウの下を飾るブラックの化粧パネルが検討された。フィアット130 クーペ風の、スリムなヘッドライトもアイデアに登るが、北米では承認が難しいことを理由に流れた。それでも、6か月という短期間でデザイン案はまとまる。

7度傾けられたフロントグリルは、歴代で最もワイド。ボディの塗装色には、特別な選択肢が用意された。引き下げる構造のドアハンドルや、長方形のテールライトも特徴といえ、フロントガラスは60度に寝かされ、ジャガーXJ6より空力は優れたようだ。

記事に関わった人々

  • 執筆

    マーティン・バックリー

    Martin Buckley

    英国編集部ライター
  • 撮影

    マックス・エドレストン

    Max Edleston

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋けんじ

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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