MP3に圧縮された音楽を聴いたあとに、レコードを聴いたような気持ちになる、アシストなしのステアリングも相変わらず革命的だ。繊細だが頑固。だからこそ、全身で信頼を寄せることができるのである。いうまでもなくボクスターSには真似のできないことだ。

しかしその代わりに、ボクスターSは電子制御に関する最新技術にてわたしを魅了してくる。これ以上でもこれ以下でもない重み、そしてラックの適切さ。ナーバスすぎないのに、素早くノーズが向きを変える。コミュニケーション能力も、エリーゼに負けていないのである。

また£890(14万円)のリア・ロッキング・デフと、トルク・ベクトリング・ファンクションが備わっているというのも大きい。自分の狙ったとおりのラインをトレースするさまは、ロケット・スレッドに乗っているような感覚に浸ることができるのである。

エリーゼのことを、ボクスターSよりも劣っているというつもりは微塵もない。それどころか、同等である。しかし思いだしてほしい。エリーゼは、サーキットにフォーカスしたタイヤを組みあわせ、アシストなしのステアリングでようやく同等だということを。

今回のテスト環境のように、峠道のみを走らせた場合は、ボクスターSもエリーゼ・カップ250も、互いに譲るところはなく、互角の勝負といっていいだろう。

ただ、クルマはあらゆる場所で使う。渋滞のシティ・コミューターたる必要もある。そうなったときにオール・ラウンダーであることも大事なのではないだろうか。

ならば、ボクスターSが勝者となるか?

エリーゼ・カップ250Sと比べた場合、たしかに本テストではボクスターSが勝つだろうが、私の頭のなかには、先代の成熟したボクスターSの印象が、未だ強く残っている。こんなことは初めてだ。最新のボクスターSが優秀であることは誰もが認める。しかし優秀であれば手放しに褒められるというわけではないと、わたしは思っている。クルマにだって ‘味わい’ が必要ではないか。よって今回はボクスターSを ‘条件つき’ の勝者とする。

ポルシェ718ボクスターS

価格	£50,695(779万円)
最高速度	285km/h
0-100km/h加速	4.6秒
燃費	12.4km/ℓ
CO2排出量	184g/km
乾燥重量	1355kg
エンジン	直列4気筒2497ccターボ
最高出力	350ps/6500rpm
最大トルク	42.9kg-m/1900rpm
ギアボックス	6速マニュアル

ロータス・エリーゼ・カップ250

価格	£45,600(701万円)
最高速度	248km/h
0-100km/h加速	4.3秒
燃費	13.3km/ℓ
CO2排出量	175g/km
乾燥重量	921kg
エンジン	直列4気筒1798ccスーパーチャージャー
最高出力	246ps/7200rpm
最大トルク	25.4kg-m/3500rpm
ギアボックス	6速マニュアル