ランチア・ストラトスに課せられた至上命題 それは「ラリーで勝つこと」だけだった

公開 : 2017.05.06 12:00

魅力的なエンジン・サウンド

これが十分な出力であることさえわかれば良い。また、エンジン・サウンドはあくまでも栄光に満ちており、回転が上がっていくにつれ、低回転のうなり声が咆吼に変化していく。そのルックスに魅了されないとしても、そのエンジン・サウンドに魅せられることは間違いない。

それまで森林ステージに鳴り響いていたどんなエンジン音よりも中毒性があり、当時のエスコートの大群の4気筒エンジンのサウンドに満足していた人々にとって素晴らしい気付け薬であったことに疑問の余地はない。

5速トランスミッションは、特にセカンド・ギアに入れたい場合、オイルが温まるまではやや扱いにくい。また、ブレーキは少しぎこちなく感じられるものの、それでもストラトスのフィーリングは他のいかなるクルマとも異なる。

これは、部分的には、矢の先端に座っているかのように感じさせるドライビング・ポジション、また、短いホイールベースと広いトラックの組み合わせのおかげだ。ストラトスは、全長がディーノよりも20cm以上、ホイールベースが16cm短いものの、幅はほぼ同じだ。

フェラーリから調達した2.4ℓV6エンジン。

できないことは何もないと錯覚させられるコーナー特性

時代的な正確さを期すため、今回取り上げるクルマは、205/70VR14ミシュランXWXタイヤを履いたオリジナルの14インチのカンパニョーロ製マグネシウム・ホイールを装着している。現在のオーナーは、普段は最新のコンポモーティブ製アルミホイールとヨコハマ・タイヤを組み合わせて走っているという。

ストラダーレの特長として、あらゆるセッティングが調整可能なサスペンションを採用いることだ。適度なスピードであれば、慣性を感じさせることもなく、回転半径も小さい。湾曲したフロント・ウィンドウを通した視認性が素晴らしいため、コーナーを回るのも極めて容易であり、ステアリングが軽いため、できないことは何もないかのような充実感がすぐに得られる。

重量の60%以上が後輪に配分されているため、極限状態では、一瞬のうちにアンダーステアからオーバーステアに切り替わる危険性があるが、こうした感覚は、あくまでも錯覚に過ぎない。F1の花形選手トム・プライスが1975年のツアー・オブ・エッピントでコース・アウトする前、記者のピーター・ニュートンとストラトスに同乗した。

その時の感想を「ストラトスは、滑りやすい路上において性能の限界付近でドライブし易いクルマではない」と、ニュートンはAUTOSPORT誌に書いた。「ビョルン・ワルデガルドが、アリタリア・カラーのストラトスで、ステアリングを勢いよく回し、ステージを攻略していく姿を見たことのある人なら、誰でも、それがわかるはずだ」。

オリジナルのツールキットがスペアタイヤの中に収納されている。

WRCでの輝かしい戦歴

ストラトスが秘めた能力を完全に解放するには、ワルデガルドやムナーリほどの才能が必要だった可能性があるものの、ランチアは、その明白なスピードに見合う信頼性をストラトスに与えることに成功した時、世界一のクルマを手にした。

ストラトスは、汎用性の高いクルマでもあった。ムナーリとジャン・クロード・アンドリューが1973年のタルガ・フローリオでストラトスに乗り、2位になった後、ムナーリは、マリオ・マヌッチと組み、その年のツール・ド・フランスで優勝した。

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