フォルクスワーゲンのEV ID.Rの挑戦 中国天文山でのレコードアタック秘話 後編

公開 : 2019.10.06 20:50

中国の天文山は、今までの舞台のように歴史的なコースではありません。フォルクスワーゲンはここを今後ライバルたちがアタックに使うコースとなるよう、新たな基準タイムを設定することを目論みました。現時点ではこの7分38秒535というタイムが唯一の公式記録ですが、これがどれだけ速いのかは今後明らかになるでしょう。

「パイクスピークがアウトバーンのよう」

今回のアタックのため、ID.Rには前後に高地であるパイクス・ピーク用の大型ウイングを取りつけている。しかしニュルブルクリンクやグッドウッドでは空気抵抗を減らすため小ぶりのものが使用された。低速コーナーが多いことがこの選択の理由だ。デメソンによれば、速度域が低いためにダウンフォースも小さく、メカニカルグリップに頼らざるを得なかったという。

しかし最大の問題はその路面だ。コンクリートのスラブをつなぎ合わせた区間が主体である上、そこは往来するバスによって摩耗が進んでいる。しかも山肌からは常に水が湧き出しているのだ。路面は補修が繰り返され、継ぎ目も目立つ。「まさにラリーでした」どデュマはいう。「ひどい路面で、しばしば宙に浮きました。パイクス・ピークも荒れていますが、ここと比べたらまるでアウトバーンです」

フォルクスワーゲンID.R(パイクス・ピーク)
フォルクスワーゲンID.R(パイクス・ピーク)

この路面状態に対応するため、プラクティスを通じて車高がを引き上げたほか、サスペンションを柔らかくしてデュマがより着実に感触を掴めるようにしている。そしてもう1つの着目点はブレーキだ。およそ11kmのコースにおいて、デュマは99ものコーナーを通過する。

ID.Rは全長21kmのニュルブルクリンクやパイクス・ピークにも対応できるバッテリーを搭載しており、その点では心配なかった。天文山はおよそ半分程度の長さであり、回生ブレーキの必要性も小さかったが、ブレーキフィールの改善が主眼に置かれた。

8分切りも可能と判断

「パイクス・ピークはより高速かつ幅広いコーナーが多いですが、ここではよりシャープなブレーキングが必要です」とフォルクスワーゲンのモータースポーツ部門を統括するスヴェン・スミーツは説明する。「当初は回生ブレーキを強めに設定していましたが、それではブレーキが効きすぎるようでした。そこでの適切なバランスを探っていったのです」

天文山は観光客向けにも解放されていたことから、プラクティスに使用できた時間もわずかであった。土曜日にシェイクダウンを行い、日曜日には2回の走行を行ったが、そのベストタイムはおよそ8分30秒であった。

天文山ビッグゲート・ロード
天文山ビッグゲート・ロード

デュマはレコードアタックの前に2回の慣熟走行を行い、その模様が地元テレビにより中継された。路面が少し乾いてきた(雨が降らなくても湧き水により常にウエットだ)ことからセッティングを変更したのち、8分6秒という記録を打ち立てたのだ。

「大きな前進でしたが、その時点ではわれわれは8分切りも可能だと考えました」とデュマはいう。しかし、これはより大きなリスクを伴い、絶壁やコンクリートブロックにさらに近いところを攻める必要があるのだ。ゴール地点では後輪が若干浮いており、前回よりも速度が高いことが見て取れた。

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