SRTヴァイバーTA

公開 : 2013.12.03 21:00

■どんなクルマ?

SRTブランドのヴァイパーとして初めてのスペシャル・モデルが、発表から一年も待たずにやってきた。SRTヴァイパーTAの登場である。アメリカで人気のあるタイムアタック・レースを引き合いに出し、TA(タイム・アタック)と名付けられたこの異端児は、レースでの活躍を踏まえてサーキット走行会仕様を謳う高性能モデルである。

このアメリカン・スーパーカーは、基本的にはオリジナルの並外れたスペックから変更はなく、巨大な8.4?V10エンジンはヴァイパー標準仕様と全く同じ650ps、83.0kg-mを生み出し、首筋を痛める強烈な加速性能にも変わりはない。ショート・ストロークの6速マニュアル・ギアボックスとファイナル・ギアについても、ギア比は変更していないという。

しかし “悪魔は細部に宿る” と言われるように、一皮向けばこのクルマの正体が分かってくる。サスペンションはトラック走行用に徹底的に改良され、スプリング・レートは20%、スタビライザーの強度は30%以上高められている。ビルシュタイン製のダンプトロニック・ダンパーは剛性の向上に合わせて改良され、電子制御によるモード設定は、スポーツとレースという2つのモードだけに制限されている。ストリート・モードなど必要ないというのである。

マットブラック仕上げの超軽量鍛造アロイホイールは標準装備となり、丸太のようなピレリPゼロ・コルサを履く。アライメントはコンマ1秒のラップタイムを削るTA専用のセッティングが施され、カリフォルニアのどこまでも続く道をドライブするようなものにはなっていない。

コクピットは、走りに専念できるよう思い切ってシンプルにしてあり、ブラックの内装に鮮やかなオレンジ色のステッチがよく映える。サベルト製のバケットシートは、初心に戻って座面とシートバックを布張りにしてあり、サーキット通いするドライバーには総革張りよりも有難い作りとなっている。革巻きのステアリングは、底面が平らなもので握りもサイズも理想的で申し分なく、SRTブランドのCEOが、デザイナーでもありレーサーでもあることをうかがわせる。

ヴァイパーTAのボンネットはアウトレットダクトが6つあるもので、これはTA以外のモデルではオプション扱いとなっている。フロントには新しく左右分割タイプのスプリッターが取り付けられているが、細い路地にクルマを進めるにはひやひやさせられるデザインだ。このため、スプリッターの”浪費”を避けるべく、交換可能なプロテクション・モールが付いている。丈の高いリア・スポイラーには後方視界を保つ目的で切り欠き部があるのだが、リア・ウィンドウ越しにはほとんどものを見ることができず用をなさない。

■どんな感じ?

アクセルを踏み込めば、スタンディング・スタートでもサーキットの周回中でも、息を飲む加速を味わえる。SRTが言うには0-100km/h加速、3.0秒台前半ということだ。容赦のない推進力が衰えることなく車体を前へと進めるが、このクルマは直線勝負のドラッグレーサーではないのである。それよりむしろTAは、サーキットで周回を重ねラップタイムを更新していくマシーンなのだ。

柔らかいうえ、スチームローラーを思わす太さのコルサ・タイヤは、無限とも言えるグリップを発生する。コーナーの入り口ではステアリング操作に素早く反応し、たちまち向きを変えることができる。この種の油圧式パワーステアリングとしては、操舵感は平均よりも優れていると言っていい。

コーナーリング中でもシャシーはニュートラルな姿勢を保つので、この1538kgのスリリングなクルマをひょいと向きを変えさせ、ドリフトさせることも、自信を持って乗りこなすことも可能なのだ。無闇にスロットルを踏み込めば、パワー・オーバーステアに持ち込むことさえ可能である。

このクルマの空力パッケージは効果的で、SRTが言うには、時速240km/hで走行時のダウンフォースは600%まで上昇するという。こうした空力上の効果があったにもかかわらず、ドラッグ係数は0.369から0.433へと著しく増大してしまった。この結果トップスピードは、標準モデルの332km/hという気の遠くなる速度から、311km/hへと低下している。

ブレンボ製のブレーキはフロントのローターが新設計のもので、接触面積を13.5%拡大している。パジット製の新型ブレーキパッドは、トラック走行性能を一層高めたコンパウンドで作られている。並外れたコントロール性と優れたフィーリングを備えるこのブレーキは、制動力が非常に強いため、フル・ブレーキング時には6点式レーシング・ベルトの有難みを知ることになる。幸い、シートの設計はこの種のベルトに適したものとなっている。

■買いか?

培ってきた技術を惜しげもなく詰め込むスーパー・スポーツの分野にあって、ヴァイパーTAは無類の存在であり、トラックデイ・スペシャルの名に相応しい方向性を掲げている。

しかし、エアロパーツ、サスペンション、そしてアライメントの変更で、このヴァイパー(毒蛇)は牙を抜かれた点もわずかにあるようだ。

SRTヴァイパーTAは、壮大なパワーを誇る明快なコンセプトのクルマで、驚異的なグリップと鋭い走りを併せ持っている。ステアリングを握ったドライバーは、このマシンの、そして自分自身の限界を極めずにはいられない。

SRTヴァイバーTA

価格 £73,900(1,240万円)
最高速度 310km/h
0-100km/h加速 3.4秒
燃費 7.6km/ℓ
CO2排出量 NA
乾燥重量 1538kg
エンジン V型10気筒9390cc
最高出力 640bhp/6150rpm
最大トルク 83.0kg-m/4950rpm
ギアボックス 6速マニュアル

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