【いい人=モテるわけではない】アウディA4 35 TFSIに試乗 平穏な時間の積み重ねに価値を見出すモデル

公開 : 2020.12.31 17:45  更新 : 2021.10.11 13:37

操る手応え<無意識に操れるタイプ

外観から受けた印象そのままのフットワークと言っていいだろう。つまり「抑えの利いたスポーティ感とエレガントな趣」なのである。

前後サスともに軽い負荷から長めのストロークを使う。FF車にありがちな突っ張るようにリアサスの沈み込みを抑えた感もない。

重質な味わいは程々。どっしりとした落ち着きを求める向きには物足りなさを感じるかもしれないが、軽やかさと質感を両立した乗り心地はアウディならではの味わい。
重質な味わいは程々。どっしりとした落ち着きを求める向きには物足りなさを感じるかもしれないが、軽やかさと質感を両立した乗り心地はアウディならではの味わい。    佐藤正勝

サスストローク速度は標準的だが、揺れ返し不要な挙動は上手く抑制されている。細かな路面凹凸の振動吸収も良好である。

重質な味わいは程々。どっしりとした落ち着きを求める向きには物足りなさを感じるかもしれないが、軽やかさと質感を両立した乗り心地はアウディならではの味わいである。

ノーズヘビーになりやすい縦置きFFを意識させないハンドリングも見所の1つ。操舵初期から応答遅れ少なくラインに乗っていく。

回頭に対する旋回力のタイムラグも少なく、向きとコーナリングラインが一致している。

だからと言って過敏というわけでもなく、高速での直進も落ち着いているし、不慣れな山岳路走行でも楽々とこなせる。

操る手応えでなく、無意識に操れるタイプのハンドリングである。

パワートレインもそうなのだが、操作と反応の繋ぎ方が時間的にも量的にも程よく、馴染みがとてもいい。

従って運転ストレスも減少し、ドライバーも同乗者も乗り疲れしにくいのは大きなアドバンテージだ。

もう少し時代をリードする部分も欲しい

環境性能も運転支援機能や車載ITなど今が求める部分は「最新」に追いつけた程度の印象。

MCとしてはかなり頑張ったのだが、もう少し時代をリードするような部分も欲しい。

あざとい演出がないから自然体で乗っていられるし、クルマに合わせた運転を強要されることもないと筆者。
あざとい演出がないから自然体で乗っていられるし、クルマに合わせた運転を強要されることもないと筆者。    佐藤正勝

また、周囲に印象付けたいとか語るためのネタや個性を価格以上に求めるユーザーには投資効果の少ないモデルに見えるだろう。

価値の多くは長い時間軸で量らないと見え難いものなのだ。

A4アバント35 TFSIは何気なく過ごした距離と時間で無意識下に信頼を築いていく「いいクルマ」である。

内外装も走りも品よくまとまっている。あざとい演出がないから自然体で乗っていられるし、クルマに合わせた運転を強要されることもない。

内外装も走行感覚も静穏を基本に仄かな昂揚感を持たせ、同カテゴリー同価格帯では最も穏やかな気分で乗っていられる一車。

プレミアムワゴンのヒーリング派と言うのも何だが、平穏な時間の積み重ねに価値を見出すモデルである。

「いい人」と同義で「いいクルマ」なのだ。

なら「いい人」がモテるかと言えばそうでもなく、ちょっと癖があるくらいのほうがモテたりもする。

強い印象が残らないから楽しくないと誤解されているのかもしれない。

でも、生活や人生のパートナーとしては? となれば、やはり「いい人」が最有力候補だろう。

記事に関わった人々

  • 佐藤正勝

    Masakatsu Sato

    1964年生まれ。1984年東京工芸大学短期大学部写真技術科卒業後、八重洲PRセンターに入社。86年にF1/ルマン24時間を撮影後何かのスイッチが入ったらしく退社。フリーとなり国内外のレースを撮影。91年に撮影したDTMで、また何かのスイッチが入ったらしくどっぷりドイツ漬けに。現在は撮影のみならず、CS放送でのレース解説や雑誌への執筆も。
  • 川島茂夫

    Shigeo Kawashima

    1956年生まれ。子どものころから航空機を筆頭とした乗り物や機械好き。プラモデルからエンジン模型飛行機へと進み、その延長でスロットレーシングを軸にした交友関係から自動車専門誌業界へ。寄稿していた編集部の勧めもあって大学卒業と同時に自動車評論家として自立。「機械の中に刻み込まれたメッセージの解読こそ自動車評論の醍醐味だ!」と思っている。

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