ケータハム・セブン160

イントロダクション

キャッチコピーは “究極のドライビング・プレジャーを手にしよう”。そんなスポーツカーが発表されたら、われわれの目は釘付けになってしまうだろう。ケータハムの新型車、セブン160がこのフレーズと共に発表されると、AUTOCARの本部では皆のキーボードを打つ手が止まり、静寂に包まれたのだった。やがて、歓喜の声が沸き上がると、あたりは一変して興奮のるつぼと化した。

低価格で高性能、走りの楽しさに徹底するメーカー。それはケータハム以外に考えられない。

コーリン・チャプマンが最初のロータス・セブンを組み上げてから半世紀。大手メーカーがどんな競合車を投入してきても、スピードとスリルというケータハムの精神を脅かすものは現れなかった。

チャプマンの初代ロータス・セブンが発表されたのが1957年。フォード製の1.2ℓ直列4気筒エンジンが40psを発するモデルだったが、それに比べると新しい160はまったく度が過ぎているように思える。今回160に採用されたライブアクスル・サスペンションは初代にも使われていたものだ。

われわれAUTOCARの当時のライバル誌”MOTOR”が1958年にテストを実施しており、0-97km/h加速が16.2秒、最高速度は130km/hと記録している。1973年にケータハム社が製造権を買い取るまでに、エンジンは1.7ℓで137psを発するフォードのケント・ユニットに変更されている。

もしもこの新型車が、ケータハムの類い稀な走りの理念に輪をかけたものなら、まったくとんでもないものを作ったことになる。しかし、この “もしも” は都合のいいもので、搭載されるスズキの軽自動車用エンジンと、車両運搬用トレーラーから持ってきたような小さなタイヤとホイールを試さなければ、真価を判断できないのである。

では、そうしたつましいパーツを集めて作った、このフライ級スポーツカーのお手並みを拝見しよう。

デザイン

セブンの基本設計は1957年から実質的に変更されていない。それにもかかわらず、改良とアップデートは絶えることなく続いてきた。このクルマには、軽さ、コストパフォーマンス、簡素化を追い求めた歴史があり、ケータハムは依然としてそこからインスピレーションを得ているのだ。この新しいエントリー・レベルのモデルにも、その精神が不可欠な要素となっている。

他のセブン・シリーズと同様に、160もチューブラー・スペースフレームで構成される。アルミを主に使用したボディ・パネルをまとっていて、このパネルは応力も受け持っている。また、軽量化のために複合樹脂パネルが随所に使用されているのだ。

サスペンションも同様に簡素化されている。160のフロントには、ノーマルのロードスポーツ・シリーズと同じダブル・ウィッシュボーンが採用され、これはスーパースポーツのものより全長が短くなっている。

リアは、リジッド式ライブアクスルを採用し、トレーリング・アームとラテラル・ロッドによって位置決めされる。1980年代からセブンに採用されてきた半独立懸架式ド・ディオン・アクスルや、セブンCSRの完全独立懸架式ユニットからは変更されている。

アクスルの変更は軽量化と、推測するに低コスト化を図ったのだと考えられる。しかしこの方式は、リアのばね下重量がかさむので、荒れた路面では乗り心地の悪化を引き起こすかもしれない。スチール製のホイールは、4.5Jx14インチサイズで、風船のような65扁平タイヤを履いている。

キャビンの中は、必要不可欠なもの以外はすべて完全に取り払われるか、そうでなければオプション・リストに追いやられている。このため標準では、ドアはなくフロント・ガラスもなく、屋根、ヒーター、スペアタイヤ、さらにはカーペットすら付いてこない。

駆動力の伝達について話しておくと、セブン160はライブアクスルより上流側のすべて、つまりプロペラシャフト、ギアボックスからエンジンとターボまでは、スズキからの供給である。このような組み合わせが、真のスポーツカーとして妥当かどうかは今後の課題である。

問題になっているエンジンは、コードネーム “K6A” という660cc3気筒12バルブエンジンだ。これは、日本市場で一般的な軽自動車規格のもので、東京などの都市部をターゲットとしている。駆動力は、5速ギア、オープン・デフを経由し、後輪に伝わる。

具体的に言うと、エンジンは日本市場向けのジムニーのもので、自然吸気とターボの二つがあり、ターボは6500rpmで最高出力64psを発する。ジムニーは、セブン160と同じギア比になっているが、最終減速比がわずかに低い。

ケータハムのチューニング・マジックにより、最高出力は81psを7000rpmで発し、最大トルクは10.9kg-mを3400rpmで記録する。カットオフが介入するのは、素晴らしいことに7700rpmからとなる。

一方、5速トランスミッションのギア・レシオはあまり魅力的なところがない。1000rpmの回転を保って走行すると、3速と4速との車速差は、うんざりすることに約7km/hしかない。それ以外のギアも見ていくと、ギア比の差がその半分になっているところもある。

しかし、あらゆるものを切り詰めた結果、車両重量はたった490kgとなった。これは1.6ℓのスーパースポーツと比較しても30kg軽いことになる。なお、われわれが計測したテストカーは、オプション装備、燃料満タンという条件で、510kgを記録した。

インテリア

読者の中には、セブンに乗り込んで、自分がリラックスできるタイプか分からない、という人もいるだろう。しかし、乗ってみればそう時間をかけずに知ることとなる。われわれAUTOCARのテスト・メンバーのうち3人に2人は、どちらとも判断できていないところがあった。残りの連中は、ぎゅっと詰め込まれるコクピットこそ、こうした刺激的なクルマの存在価値だと考えるタイプだ。もっとも、彼らも短距離に限っての話なのだが。

また、もしも読者の中に身長が2m以上ある人がいたら、セブンのことは忘れてしまおう。でも気を落とさないでほしい、もっとまともに使えて、走りの熱いクルマはいくらでもある。セブンにとっては、キャビンにゆとりを望むことさえ制約の対象となるのだ。サーキット走行をするにしろ、峠までひとっ走りするにしろ、週末にちょっと乗り回す以外の装備は、すべてこのルールに従うのだ。

つまり、どんな目的にも使えるクルマでは決してないのである。畳んだフードを入れてしまうと、トランク・スペースにはボストンバック一つ分のスペースしか残らない。コクピットも2人を押し詰めて乗れる分だけなのである。サイズの大きなシリーズ5シャシーは、オプションから外され160では選ぶことができなくなっている。

それでも、シートに入り込みベルトを締めつければ、不便極まりない時間はもうおしまいだ。ダッシュボードはシンプルで洗練されたブラック仕上げで、この造形は均整の取れたシフトレバーにまで及ぶ。速度計とレヴカウンターは小さいが読み易いものだ。ただし、そこから油圧計、水温計、燃料計と左に離れていくと読みづらさを感じてくる。

さらには、こういったものに慣れたところで、イグニッション・スイッチは視界の外に隠れているし、イモビライザーの解除さえ度々骨を折るものなのだ。ここでは “親しみは軽蔑を生む” という名言も、”親しみは満足を生む” に変わってしまうのだ。われわれの静粛性テストによると、雨の中でルーフを閉じて走行するよりも、晴れてからドアを外した方が好ましい結果となった。

このクルマは、休みの日を心ゆくまで楽しむための遊び道具である。そのように扱う限り、数々の制約も魅力の一部になると言える。

パフォーマンス

160のエンジンに関しては、ほとんど魅力を感じるところがない。1.5mも動かせば、このパワートレインは走りの性能を備えていないのが分かるだろう。何百kmも続けて走れば、仮にもセブンにこんなエンジンを積んだ見識を疑いたくなる。

ゼーゼー喘ぐ軽自動車用3気筒エンジンはあらゆる点でロバのようだし、2速は時速60km/hほどで吹け切ってしまう。それでもケータハムの説明によると、0-97km/h加速は7秒未満ということだ。われわれのテストでは、ウェット・コンディションだったために8秒を割れなかったが、理想的な条件であっても劇的に速くなるとは思えないのだった。

われわれが毎回行っている発進加速テストについては、明らかに期待はずれだった。気持ちのいいはずの高速クルージングも同様だ。それならばと長めのドライブに引っ張り出すと、4000rpmほどでエンジンが騒ぎ立てる。しかし、これでも5速で時速100km/hに達していないのだ。イギリス自動車試験研究機関にある1マイルの直線では、最高速度として謳われる時速160km/hをどうにも達成できなかった。

高速道路や市街地を通るのは自粛すべきだ。そうなると160は、あわや機能不全におちいるスレスレである。それでは、このクルマにとってマイナスにならず、持ち味を発揮できるところはどこなのか。それはセブンのホームグランド、そう、Bロード(二級幹線道路)なのである。

走り抜ける空間がたっぷりあり、3速と4速を使ってエンジンをうならせれば、ミドルレンジの出力を楽しむことができる。このクルマは7000rpmという高回転域でも力を発揮し続けるが、一番楽しめるのは3000rpmから5500rpmだ。その回転域なら、軽量な160のターボチャージャーが情熱的に過給音を響かせてくれる。

このクルマのペースを上げるのに虚勢も攻撃性も必要ない。それでは興奮を味わえないという人もいるだろう。しかし、張り切って走るのはいいが違反はしたくないというのが、160のスタイルなのだ。

乗り心地とハンドリング

160の使命が、他にはない突出した走りを、できる限り安価に実現することなら、それは大成功といえる。

剥き出しのドライビング感覚、クルマに運転されるのではなくクルマを操る楽しみ。こうしたケータハムのあるべき姿というのは、どんなに分からず屋のアマチュア・ドライバーだって実感できるはずだ。

われわれのテストは(いつだってそうなのだが)ドライ・コンディションで行うことができなかった。しかし、以前160に乗ったときの経験から、公道で全開走行しても、スズキから “寄贈される” 駆動力ではリア・タイヤの限界に届かないことが分かっている。

これがハッチバック車のレビューだったなら、 ”どうしようもなく退屈” と言い換えられるのだが、すでに触れたように速度が制約されたとはいえ、これはセブンだということを忘れてはならない。五感に響く全開走行は、剥き出しのノンパワー・ステアリングに捧げるバラードなのだ。

馴染みのないステアリングの軽さと、ストロークの大きいコイルスプリングには戸惑うが、フィーリングが明瞭で判断しやすい点に変わりはない。これは “使いやすさ” をまとったセブンなのである。得たいの知れないクルマに先祖返りすることは、もうないのである。

雨の中を160で走り始めると、10月には始まるシェトランド諸島の冬のように、すぐに限界がやってくる。ドライ路面ではパワー不足の3気筒エンジンのせいで試せなかったパワー・ドリフトが、いつでも準備OKとばかりに出番を伺っている。

こんなに振り回しやすいリア・セクションなのだが、さえないところもある。しかし、急加速すれば、依然として超過敏なステアリングから、先を読みやすいフィーリングが伝わってくる。そして、160は低速域でも伸び伸びと走り、今までのようにスペースフレームを通して明確に路面状況を感じることができるのだ。

しかしながら、起きていることがダイレクトに伝わるからといって、それが的確で正確だとは限らない。商用車用のアクスルをいくら華やかに飾り付けても、このクルマの品格を保つことはできないのである。

いまや、グリップを誇る太いタイヤもなければ、LSDも付かず、ハードな足まわりを強いられることもない。トラクションが不足している160でコーナーに入れば、必ず実際の挙動との思い違いが生じ、不満を口にしながら駆け抜けることとなる。

か細いタイヤを見れば分かるように、このクルマは向こう見ずな奴でも行儀の悪い奴でもない。もちろん、どしゃ降りの中で走るのは別だが……。それにしてもスズキのリジッド・アクスルとオープン・デフでは極限状態で緻密な動きを望めはしない。街道レーサーとして走りに出れば、この事実を目の当たりにするだろう。

しかし、そんな不満を解決したいなら、ケータハムの他のモデルを買えばいい。160は、コーナーでロールする柔らかい足や、快適性が示すように、いつでも親しみやすいモデルとして設計されているのだ。低い限界からも分かるように、気軽に楽しみたい時には適切なクルマなのだ。そのように考えると、オープントップ・モデルの中にこれほど人付き合いのいい奴もなかなか居ないのではないか。

ランニング・コスト

セブン160は、ケータハムが提供する最廉価モデルだと考えられている。このため新しいホット・ハッチバックを買うよりも、安い値段で手に入れられるのだ。英国では自分で組み立てるキット・フォーム販売があるので、さらに安く済ませられる。こうした点は非常にありがたく思えるが、それも最初のうちだけなのだ。

残念なことに、ファクトリー製造の完成車は、実用的な装備をつけると購入価格がどうにも引き上がってしまう。フロント・ウィンドウも、屋根もヒーターも、それに道路税支払い証明書ホルダーすら、ここでは無用の長物として別料金になるのだ。

われわれは、ロードカーに必要なものはなにかと論じ合い、これらの装備は必ずしも必要ないと判断した。

もしも、そのような装備を求めるなら、すでに£20,000(約330万円)の壁は超えてしまい、160のカタログ定価というよりも、スーパースポーツのキット販売価格に近い数字になるのだ。

どちらのケータハムも、£20,000未満のライトウェイト・スポーツ市場を席巻することはできないのだ。その価格帯のライバルでは、ウェストフィールドとグリナールの方が、評判を得ているからだ。

残存価格についてはケータハムが有利で、中古車価格は手堅い水準を維持している。

結論

皆さんが160になにを望むかが、その答えとなる。

もしも、最新のセブンが欲しいのでお値打ち版を買ってみるという人は、日本風になったケータハムが思わぬ方向に外れていて、突拍子もないコンビネーションに惑わされ160からは立ち去っていくだろう。

代わりに、弾丸のような走りを求めるのでなく、他では味わえないドライビング・プレジャーにもう少しお金を出すつもりなら、160は投資額の10倍に値するオリジナリティ溢れる魅力で応えてくれる。

セブンの精神に触れるエントリー・カーとしては、このクルマの立ち居地は厳しい。現在のケータハムオーナーがこのクルマを選ぶとは考えられないし、その上、初心者にとっては憧れのクルマの思わぬ実態を見てしまった気になる。

不朽の名作としての地位からは、基本的な素質が不足している。それでも、160は爽快な走りのクルマで、少なからずスペシャリティを併せ持っている。

スリルと正確無比の走りを求める人なら、セブン・スーパースポーツに心が傾いてしまうだろうが。

ケータハム・セブン160

価格 £17,995(283万円)
最高速度 160km/h
0-97km/h加速 6.5秒
燃費 12.3km/ℓ
CO2排出量 180g/km
乾燥重量 490kg
エンジン 直列3気筒660cc
最高出力 80bhp/7000rpm
最大トルク 10.9kg-m/3400rpm
ギアボックス 5速マニュアル

 
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