【セナと過ごした24時間】伝説の男、アイルトン・セナ 愛車同乗・サーキット試走 AUTOCAR回想録

公開 : 2021.06.05 06:05

英AUTOCARがアイルトン・セナと過ごした1991年のとある日のことを回想。全盛期の彼を偲びます。

セナとの出会い

text:AUTOCAR UK編集部
translator:Takuya Hayashi(林 汰久也)

モナコは、アイルトン・セナの偉大な勝利の舞台でもある。2021年にF1がモナコに戻ってきたのを機に、「ミスター・モナコ」と呼ばれた偉大な人物と英AUTOCAR編集部のスタッフが過ごした時のことを振り返ってみたいと思う。

舞台は1991年の英国。同年に大改修を受けたばかりのシルバーストン・サーキットの評価に訪れたセナに、AUTOCARが同行した。

●1991年6月23日(日)午後6時30分、キドリントン空港 – マイケル・ハーヴェイのレポート

永遠に語り継がれるF1ドライバー、アイルトン・セナ
永遠に語り継がれるF1ドライバー、アイルトン・セナ

空は、アイルトン・セナが乗るブリティッシュ・エアロスペースHS125の脇腹に描かれた3本のグレーストライプのように暗く、F1チャンピオンがオックスフォードシャーに到着するのを見極めるのは困難であった。セナはこの日、パリからの短い移動のために3種類のフライトプランを申請したが、午後6時35分ぴったりに到着した。

セナは真っ白なリーボックとストレートジーンズを履いて、飛行機の反対側から姿を表した。彼は思ったよりも小柄だが、淡いブルーのコットンの半袖シャツとマクラーレンの赤いボンバージャケットの下には、胸と腕が大きく見える。

わたしの横には、ホンダの広報担当者が小さな息子のジャックを連れて立っている。ジャックは、セナがクルマと同じように飛行機を操縦できるかどうかを知りたがっている。

「いいや」と父親は言う。「でも、ブラジルには自分のヘリコプターで帰るんだよ」

ジャックは、セナがレーシングカーや飛行機だけでなく、本当にヘリコプターも持っていたのかと感心している。

「そうさ。彼は何でも持っているんだ」

セナはホンダのNSXも所有している。NSXは空港ビルの反対側に駐車されているが、これに乗る前に税関や入国管理局、そしてジャックと話をする。ジャックはセナに「いい子にしていたか」と聞かれて気絶しそうになる。肯定的な答えをするとご褒美がもらえる。

愛車のホンダNSXに同乗

●午後7時、オックスフォード環状道路

ワールドチャンピオンでも渋滞に巻き込まれることがある。1km以上続く渋滞の後ろにホンダのスーパーカーがゆっくりと並ぶ。セナは窓を開けて、聖歌隊のようにソフトでクリアな英語で「いいね!」と言った。「酷い渋滞だ」

セナと話をするには絶好の機会だ。彼は、オートマチックのNSX、ポルトガルで保管しているマニュアル仕様のNSX、ブラジルで手に入れたいと考えている同仕様のNSX、そしてそこに加わるゴルフGTIとメルセデス300TEについて喜んで話してくれた。

アイルトン・セナとデイモン・ヒル
アイルトン・セナとデイモン・ヒル

「僕は基本的に運転が好きなんだ。クラシックカーよりもスポーティで、ソフトで遅いクルマでなければいいんだよ」と彼は言う。NSXの大ファンなのは、ホンダが彼に給料を支払っているからでも、引退後にブラジル初のホンダディーラーを開く可能性があるからでもない。

フェラーリでもなく、ポルシェでもなく、ホンダがいいんだ。僕はいろいろなメーカーのクルマに乗るけど、このクルマは気に入っている。最もパワフルなスポーツカーではないけど、道路で楽しむのに十分なパワーがある。必要以上にパワーがあると、他の人にとって大きな危険になるかもしれない」

その言葉を証明するかのように、セナはスロットルを開け、わたし達がおしゃべりしている間に開いた前走車とのギャップに向かって走り出した。

セナは渋滞の中で少し落ち着きを失っていたが、通りすがりの子どもたちが手を振ったり、笑顔を見せたり、大声で叫んだりするのを快く受け入れていた。わたしは、今日のF1で最高のドライバーにとって、NSXは少々ソフトタッチなのではないかと彼に言ってみた。

「乗り心地の悪いクルマやうるさいクルマは欲しくない。僕が欲しいのは高性能スポーツカーの特徴を持たないクルマだ。普通のスポーツカーは騒音や不快なことが多いから、毎日乗ることはできない。このクルマは、どんな状況でも楽しんで運転できるクルマという基本的なコンセプトを持っているんだ」

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