【AUTOCARアワード2021】トーマス・インゲンラート スターメー賞 率直でクリエイティブなCEO

公開 : 2021.06.10 18:05

クールで個性的なポールスターのインゲンラートCEOがスターメー賞を受賞。彼の魅力と方向性を探ります。

クールでエネルギッシュなボス

text:Steve Cropley(スティーブ・クロップリー)
translator:Takuya Hayashi(林 汰久也)

2021年のAUTOCARアワード、世界を変えるかもしれない人物へ贈られるスターメー賞に輝いたのは、ポールスターのトーマス・インゲンラートCEOだ。

トーマス・インゲンラートは、自分がまったく新しいタイプの自動車会社の代表になるとは思ってもいなかった。彼はそれまで、ボルボのデザイン担当上級副社長として、世界的な販売回復に拍車をかけることになったスタイリングとキャラクターの改善を担当していた。

トーマス・インゲンラートCEO
トーマス・インゲンラートCEO

しかし、ボルボがそのブランド価値を守り続けるためには、決して作ることのできないクルマがあることを、インゲンラートのような内部の人間はよく知っていた。大胆で奇抜なデザインや、ハイパフォーマンスカー、少量生産の高級車、好き嫌いのはっきり分かれるクルマなどだ。

そこで、2016年後半、ボルボ社内では、伝統的な「温もり」のあるブランドには、既存の部品やシステムをできる限り活用して、まったく異なる顧客層に向けたクルマを作る「クール」な仲間が必要だという考えが生まれた。

クールさを示す方法の1つは、他の自動車メーカーが電動化を余儀なくされる前に、進んで電動化を受け入れること。もう1つは、スタイリングを大胆にするとともに、コンセプトをドライバー中心にすることだった。

そのためには、新ブランドの価値を体現するようなブランド名と、その方向性を明確に示すような、先進的な考え方と個人的なクールさを持つ、刺激的で経験豊富なボスが必要だった。

驚くべきことに、その両方はすでにボルボの手元にあった。それは、1996年からレーシングチームやパフォーマンス志向の市販モデルに使用されていた「ポールスター」という名前と、デザイン部門の責任者であり、率直でエネルギッシュ、そして際限なくクリエイティブなインゲンラートの強力な個性である。

クルマのデザイン以上に重要なこと

ポールスターは当初、あらゆる自動車メーカーが水面下で抱えているような探究的なプロジェクトだった。インゲンラートはこう説明する。

「ホーカン・サムエルソン(ボルボCEO)とピーター・メルテンス(当時の研究開発責任者)は、ボルボにとってまったく新しい挑戦となるポールスターの構想を思いつきました。それは、EVのアストン マーティンのようなもので、高級車の中ではボルボよりもずっと上に位置するものでした」

ポールスター1
ポールスター1

「わたし達は2か月ほどこの構想に取り組み、かなり保守的なデザイン案を作成し、モデルの構成を考えました」

「しかし、ある夜、ピーターから電話があり、別のアイデアを提案されました。彼は、デザインスタディとして制作したコンセプト40.2を見直していたのですが、そのデザインは人々に好まれており、ポールスターモデルとして良いのではないかと提案してきたのです」

インゲンラートは一晩考えたが、すぐにこのアイデアを受け入れた。ポルシェテスラのEVと競合することになり、ボルボともある程度重なることになるが、新ブランドの方向性としてはより良いものだった。アストン マーティンのEVのアイデアよりもはるかに社会に適していると思われ、潜在的な需要もはるかに大きいためだ。

「メインストリーム(主流)とは呼べませんが、より多くのユーザーに訴求できました」

インゲンラートはすぐに、新ブランドのあらゆる課題に没頭するようになった。どうやってその価値を伝えるのか?どのようなラインナップにするのか?ボルボ車とどのように関連するのか?誰が買ってくれるのか?これらはすべて未解決の問題だった。

「新しいブランドを立ち上げるというのは、クルマをデザインするだけではなく、それ以上のことをしなければならないということなのです」

「ある日、ホーカンのオフィスに行くと、彼がこう言ったんです。『いいかい、トーマス、君は20年も前からやっているんだ。そろそろ自分自身に挑戦して、このブランドを完全にコントロールする時が来たのではないだろうか』と。彼はわたしに、CEOになるチャンスと、そのために必要なすべてのツールとパワーを与えてくれたのです」

関連テーマ

おすすめ記事