北欧の新星 ポールスターが目指す理想的デザイン(後編) 人を怖がらせるクルマや「革命」は要らない

公開 : 2025.11.22 11:45

スウェーデンのEV専門ブランド、ポールスターは個性的なデザインと高い走行性能で注目を集めています。しかし、EV販売が低迷する今、どこへ向かおうとしているのか。デザイン責任者フィリップ・レーマーズ氏に訊きました。

ポールスターの価値観に基づく進化

ポールスターは中国の吉利集団の傘下であり、ボルボと技術やプラットフォームを共有しているが、一部の子会社よりも高い独立性と自律性を持つ。小規模なチームと、小規模ながら拡大中のラインナップを背景に、レーマーズ氏は将来のデザインを構想する上で「明確さが鍵」になると語る。デザイナーが企業に飛び込み、即座に自らの色を出すのは容易かもしれないが、彼は革命を計画していない。

アウディを辞めた後、ブランドについて考えながら休職期間を過ごしました。最初に考えたのは、デザインに革命を起こすのは良くないということでした。ブランドがまだ若すぎるからです」

まもなく発売予定の旗艦モデ『ポールスター5』 
まもなく発売予定の旗艦モデ『ポールスター5』 

「革命を起こしたいわけではありません。ポールスターの価値観に基づいた大胆な進化を遂げたい。これは間違いなく大きな挑戦です。ブランド認知度はまだ成長段階にあるため、既存のデザイン言語を基盤に構築しなければなりません」

休暇で庭の手入れに励む間、レーマーズ氏は「性能というテーマも常に念頭に置いていました」と語る。性能はポールスターも常に重視してきた価値観の1つだが、今後はさらに強化されるという。「ボルボとの差別化を図り、独自の立場を確立する手段なのです」

「着任当初はブランドチームと緊密に連携し、ブランドを研ぎ澄ますことに注力しました。そうしてポールスターの価値観として、デザイン、性能、持続可能性というものを明確に定義しました」

「そして今、何をするにもこの価値観に沿っています。これは現実的に考えなければならないことです。例えば技術面では、あらゆる技術をクルマに詰め込むこともできますが、そうすると『何のために存在するのか?』という問題が生じます。ですから、今は価値観に基づいて意思決定を行っています。デザイン重視か? パフォーマンス志向か? サステナビリティか? そうすることで物事はより明確で単純になります」

過度に攻撃的なデザインは望まない

次に発売されるモデルは、スーパーセダン『5』だ。ポルシェタイカンのライバルで、すでに量産モデルが公開されている。レーマーズ氏が初めて主導したコンパクトSUV『7』の発売は2028年まで待たねばならない。だが、彼はすでにいくつかのヒントを示している。

「トーマス(・インゲンラート前CEO)はデザイナーだったので、すべてにおいてデザインと持続可能性に焦点が当てられていました。パフォーマンスは少し隠されていたんです。ポールスター5は幸運な存在です。真のフラッグシップカーであり、最高のパフォーマンスを表現しています。7もその影響を受けます」

過度にアグレッシブな外観を避け、先進的で高性能なイメージを打ち出している。(画像はポールスター5)
過度にアグレッシブな外観を避け、先進的で高性能なイメージを打ち出している。(画像はポールスター5)

その性能をエクステリアデザインで伝えるため、今後のモデルは「より水平基調で、よりダイナミック」になるという。「特にSUVでは、より低く、より滑らかになります」

現代のデザインの潮流の1つに、クルマを攻撃的に見せるというものがあるが、レーマーズ氏はこれに追随するつもりはない。「クルマは超魅力的に見せなければならず、人を怖がらせてはいけません。最近、自動車メーカーは『俺がここにいるぞ』と叫ぶようなデザインを流行らせていますが、ポールスターはそれを望みません。過度に攻撃的な見た目にすべきではありません。野心的ではあっても、攻撃的ではないのです。そんなものはスウェーデンに合わないと思いますし、ポールスターは真にスウェーデンのパフォーマンスブランドらしい姿であるべきです」

代わりに、進歩的なデザインに焦点を当てる。「友好的に見せる必要はありませんが、人を怖がらせてはいけません。進歩的であると、人を怖がらせることもありますが、『おお、UFOみたいでかっこいい』と思わせることもあります。わたしが求めているのは後者です」

記事に関わった人々

  • 執筆

    ジェームス・アトウッド

    James Attwood

    役職:雑誌副編集長
    英国で毎週発行される印刷版の副編集長。自動車業界およびモータースポーツのジャーナリストとして20年以上の経験を持つ。2024年9月より現職に就き、業界の大物たちへのインタビューを定期的に行う一方、AUTOCARの特集記事や新セクションの指揮を執っている。特にモータースポーツに造詣が深く、クラブラリーからトップレベルの国際イベントまで、ありとあらゆるレースをカバーする。これまで運転した中で最高のクルマは、人生初の愛車でもあるプジョー206 1.4 GL。最近ではポルシェ・タイカンが印象に残った。
  • 翻訳

    林汰久也

    Takuya Hayashi

    1992年生まれ。幼少期から乗り物好き。不動産営業や記事制作代行といった職を経て、フリーランスとして記事を書くことに。2台のバイクとちょっとした模型、おもちゃ、ぬいぐるみに囲まれて生活している。出掛けるときに本は手放せず、毎日ゲームをしないと寝付きが悪い。イチゴ、トマト、イクラなど赤色の食べ物が大好物。仕事では「誰も傷つけない」「同年代のクルマ好きを増やす」をモットーにしている。

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