北欧の新星 ポールスターが目指す理想的デザイン(前編) 進化と洗練、小規模だからこそ輝く個性

公開 : 2025.11.22 11:25

スウェーデンのEV専門ブランド、ポールスターは個性的なデザインと高い走行性能で注目を集めています。しかし、EV販売が低迷する今、どこへ向かおうとしているのか。デザイン責任者フィリップ・レーマーズ氏に訊きました。

ブランドの在り方を体現するカタチ

デザインはどの自動車メーカーにとっても重要だが、ポールスターにおいてはDNAに深く刻み込まれている。ポールスターは、ボルボのコンセプトカーをきっかけに誕生したスウェーデンのブランドだ。デザインへのこだわりは極めて強く、当時のボルボのデザイン責任者トーマス・インゲンラート氏がCEOに抜擢されたほどである。

ポールスターの歴史はまだ浅いが、他の新興EVブランドの中でも一際強い存在感を放っている。その魅力は、洗練されたデザイン言語、無駄を削ぎ落としたライン、最小限のカラーパレット、そしてスカンジナビア風のクールさにある。ポールスターの運転感覚を知らない人でも、その外観はなんとなくイメージできるのではないだろうか。

ポールスターはデザインと走行性能を重視したスウェーデンのブランドだ。
ポールスターはデザインと走行性能を重視したスウェーデンのブランドだ。

つまり、ポールスターにおけるデザイン責任者の役割は、他の自動車メーカーよりも重く大きいのだ。1月にマクシミリアン・ミッソーニ氏の後任として同職に就いたフィリップ・レーマーズ氏には、高い期待が寄せられている。

「ポールスターはデザイン主導の企業です」とレーマーズ氏は語る。「前CEOはデザイナーで、会社の多くがデザインを中心に構築されています。それがこの役職に惹かれた理由です。機敏で新鮮、エモーショナルなブランドなので、自分に合っていると思います」

就任初日に感じたドイツ企業との「違い」

現在46歳のレーマーズ氏は、これまでのキャリアの大半をフォルクスワーゲン・グループで過ごしてきた。ゴルフMk7やパサートなどの開発にも携わっている。直近の10年間はアウディに在籍し、エクステリア担当として、デザイン責任者マルク・リヒテ氏とは緊密な協力関係にあった。

しかし、リヒテ氏は退任し、マッシモ・フラシェラ氏が新たにアウディのデザイン責任者として着任することになった。そうした人事異動の最中、レーマーズ氏のもとへポールスターからオファーが舞い込んだという。「残留することもできた」が、「チャンスを掴むべき瞬間は必ず訪れる」と移籍を決めた。

VWグループ出身のレーマーズ氏は、アウディのデザインにも長く携わっていた。
VWグループ出身のレーマーズ氏は、アウディのデザインにも長く携わっていた。

ポールスターとアウディはどちらも「プレミアムパフォーマンス」ブランドだが、両社には「大きな違い」があるという。歴史的には、アウディのルーツは1885年に遡る一方、ポールスターは2017年に設立されたばかりだ。国民性も異なる。「文化も違うし、スウェーデンという国自体が異なります。国の違いは、社内の文化や連携にも影響します。それが難しいところでもであり、良い変化でもあります」

今年1月の就任初日には、ドイツ・インゴルシュタットのアウディ本社とスウェーデン・ヨーテボリにあるポールスター本社の違いをはっきりと認識した。「吹雪の真っ只中に到着して『なんてこった、全然違うな』と思いましたよ」と彼は笑う。「でも、その日からとても良かった。家族は2か月前に移住して、すっかり落ち着いてきました」

スウェーデンの冬に慣れるだけでなく、両社の規模の違いにも適応している。「チームははるかに小さい。アウディでは、エクステリアデザインだけで150人もいました。ポールスターでは、デザインチーム全体で61人です」

「規模はかなり小さいですが、適切な人材がいれば悪いことではありません。より機敏に動けるので良いことです。ただし、規模を縮小すべきだとは思いません。ポールスターは成長中で、新たなセグメントに進出しているブランドだからです」

記事に関わった人々

  • 執筆

    ジェームス・アトウッド

    James Attwood

    役職:雑誌副編集長
    英国で毎週発行される印刷版の副編集長。自動車業界およびモータースポーツのジャーナリストとして20年以上の経験を持つ。2024年9月より現職に就き、業界の大物たちへのインタビューを定期的に行う一方、AUTOCARの特集記事や新セクションの指揮を執っている。特にモータースポーツに造詣が深く、クラブラリーからトップレベルの国際イベントまで、ありとあらゆるレースをカバーする。これまで運転した中で最高のクルマは、人生初の愛車でもあるプジョー206 1.4 GL。最近ではポルシェ・タイカンが印象に残った。
  • 翻訳

    林汰久也

    Takuya Hayashi

    1992年生まれ。幼少期から乗り物好き。不動産営業や記事制作代行といった職を経て、フリーランスとして記事を書くことに。2台のバイクとちょっとした模型、おもちゃ、ぬいぐるみに囲まれて生活している。出掛けるときに本は手放せず、毎日ゲームをしないと寝付きが悪い。イチゴ、トマト、イクラなど赤色の食べ物が大好物。仕事では「誰も傷つけない」「同年代のクルマ好きを増やす」をモットーにしている。

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