【エンジンは850クーペ】フィアット600ムルティプラ リンゴットの屋上を走りたい 前編

公開 : 2021.07.25 07:05

新車時でも21psだったムルティプラ

彼が手に入れた600ムルティプラはフェイスリフト後の1958年モデルで、600のサルーンと同じ633cc 4気筒エンジンが積まれていた。しかしトランスミッションは、初期の4速MTという組み合わせだった。

「シャシー番号は一致していましたが、モデル前期のトランスミッションが載っていました。ドラム式のハンドブレーキが一体となったものです。後期型は違う形式のはず。工場に残った在庫を使ったのでしょうね」ヒューエットが憶測する。

フィアット600ムルティプラ(1958年/欧州仕様)
フィアット600ムルティプラ(1958年/欧州仕様)

状態の良いエンジンでも、本来の最高出力は21ps。常に息苦しさは感じられるクルマだった。真新しい600ムルティプラは、80km/hまでの加速に43秒が必要だった。最高速度は下り坂の追い風で、96km/hに届くかどうか。

1960年に767ccへ排気量が増えたエンジンが登場し、若干もどかしさは改善された。それでもロングストローク・ユニットが生み出した馬力は、約25ps。運転手と5名の同乗者を乗せるクルマとしては、非力感は否めない。四角いボディは空力的にも悪かった。

600ムルティプラに、より多くのパワーと信頼性を求めたヒューエット。考えた結果導き出されたのが、小粋なフィアット850スポーツクーペだった。「クーペは52psを発揮していたことを思い出したんです」

「当時としては、最もパワフルな仕様でした。ネットオークションのイーベイでエンジンを探し、ロックダウンの規制が緩くなった間を狙ってマンチェスターへ引き取りに行きました」。しかし、このエンジンもハズレ。買った内容の70%はゴミだったという。

逆回の必要があった850用エンジン

「アメリカのオーナーの中には、同じコンバージョンを仕上げた人が数名いました。幸運にもその1人、ポール・カソロナと連絡が取れ、必要な詳しい情報をPDFで送ってくれたんです。とても感謝しています」

「ムルティプラで850スポーツクーペ用エンジンを動かすのに必要なすべての工程が、写真に残されていました。変更すべき部分はかなり多かったのです」

フィアット600ムルティプラ(1958年/欧州仕様)
フィアット600ムルティプラ(1958年/欧州仕様)

「850用のエンジンはボディの低いスポーツクーペに積むため、傾けて搭載される前提でした。ムルティプラに乗せる場合は逆向きに回転させないと、エンジンオイルが正しく潤滑されない構造なのです」

「エンジンを逆回転させるには、カムを変えるか、ギアを噛ませる必要があります。スポーツクーペ用の高性能カムを残せる、ギアによる解決の方が良い手段だといえますね」

「バルブとバルブシートを交換し、ヘッドも加工。ピストンとコンロッドは構造上、180度回転させて組み直す必要がありました」。ラジエターとファンの位置がずれたり、ゴム製の部品に負担がかかるなど、不具合の原因となる要素もいくつか生まれた。

600ムルティプラのエンジンの載せ替えでは、追加のラジエターをクルマの下面に搭載することが多いという。充分な気流があり、不足ない冷却効果を得られる。しかしヒューエットは、標準状態に戻せなくなる加工には消極的だった。

この続きは後編にて。

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