【捨てるのはもったいない】リグニン 紙業界の廃棄物を自動車に? 持続可能素材

公開 : 2021.08.01 20:45

紙の製造時に生まれるリグニンを、クルマに活用する研究が進められています。EVの性能向上も期待できます。

廃棄物の意外な用途を発見

text:Jesse Crosse(ジェシ・クロス)
translator:Takuya Hayashi(林 汰久也)

過去数十年にわたり、自動車業界のアナリストたちは新しいパワートレインの動向を予測しようとしてきた。都市部ではバッテリー駆動のEVやハイブリッド車が成長し、将来的には長距離走行が可能な水素燃料電池車が普及するというのが大方の予測だ。

EVの成長が期待を大きく上回っていることを除けば、大きく外れてはいない。しかし、最終的な「ゴール」はまだ明らかにされておらず、再生可能かつ持続可能でカーボンニュートラル、しかも低コストという「理想的な回答」が登場するかもしれないという見通しがまだある。

木材由来の成分であるリグニンの使い道は、あまり注目されてこなかった。
木材由来の成分であるリグニンの使い道は、あまり注目されてこなかった。

最新のテクノロジーにばかり目が行きがちだが、新しい素材やあまり知られていない用途発見に本当の可能性があるのではないだろうか。画期的な全固体電池が今後数年のうちに登場することはわかっているが、それ以外には何があるのだろうか?

リグニンは製紙産業の副産物であり、毎年何千万トンものリグニンが紙パルプの製造工程で除去され、そのほとんどが燃焼されている。自然界では木材の主要成分の1つであり、害虫や風雨に耐えるための「木化」に貢献していると言われている。

地球上で最も豊富に存在する天然高分子の1つでありながら、リグニンの用途開発はあまり進んでいない。しかし近年、その再生可能性から、クルマに関わるさまざまな分野で関心が高まっている。

リグニンから炭素繊維を作る

英インペリアル・カレッジ・ロンドンの研究チームは最近、スーパーキャパシタに使用されているグラフェンベースの炭素をリグニンに代替できることを発見した。リグニン由来の部品は、炭素ベースのものよりも一定の体積あたりに蓄えられる電気エネルギーが多く、しかも安価であるという。

スーパーキャパシタの特徴は、充放電の繰り返しに耐えうる長寿命にあるが、エネルギー密度の低さと高価な点が課題となっている。マサチューセッツ工科大学とランボルギーニは、スーパーキャパシタのエネルギー密度を高めるために金属有機構造体(MOF)を開発している。

ランボルギーニ・シアンにはスーパーキャパシタが使われている。
ランボルギーニ・シアンにはスーパーキャパシタが使われている。

こうした研究が進めば、従来のバッテリーよりもはるかに早く充放電ができ、しかも十分な航続距離を確保できるようになるだろう。

一方、フィンランドのStora Ensoという会社は、リチウムイオンバッテリーの負極に使用するグラファイトを、持続可能なリグニンを原料として試験的に生産している。同社は、繊維メーカーのCordenka社と協力して、既存の石油由来の原料であるポリアクリロニトリル(PAN)ではなく、再生可能なリグニンから炭素繊維を開発している。

また、ドイツ・デンケンドルフ紡績繊維研究所(DITF)の研究チームは、4年間に渡る研究プロジェクトの一環として、カーボンファイバーのコスト削減のためにリグニンを原料として使用することに成功した。

炭素排出量の削減に向けた世界的な動きが大きな刺激となって、数年前には誰も予想できなかった持続可能素材による革新的な用途の発見につながっているようだ。

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