モスクヴィッチ/ヴァルトブルク/ラーダ 英国で歓迎されたソ連の大衆車 後編

公開 : 2021.11.28 07:06

個性的で運転の楽しいヴァルトブルク

キーを捻ってエンジンを目覚めさせると、ラーダ1200とは際立って違う。3気筒2ストローク・エンジンは、ノイズと振動が盛大。アイドリング時は、明らかに不快に思えるほど車内に響き、各所で共振を招く。

1足へつなぎアクセルペダルを踏み込んでいくと、タービンが回転するように見違えて滑らかに変化する。ノイズもマイルドに変わる。高めの硬い音質で、聞き惚れてしまいそうな個性だ。

ヴァルトブルク・ナイト(1967〜1976年/英国仕様)
ヴァルトブルク・ナイト(1967〜1976年/英国仕様)

シフトフィールはイマイチ。見事にレストアされ新車時の感触が取り戻されているというが、シフトノブは漠然と動き、引っかかりや弾かれるような手応えもある。

その理由は、VEBオートモービルヴァーク社が需要に応えるべく、右ハンドル用のフロアシフトを急ごしらえで準備したため。それでもフリーホイール構造で、クラッチペダルを踏まずとも変速でき扱いやすい。

ソフトな乗り心地と、タイトでローレシオなステアリングが組み合わさり、ヴァルトブルク・ナイトの運転は楽しい。体験として、今回の3台で最も個性的でもある。

ペールブルーのモスクヴィッチ1500は、サラ・スワン氏がオーナー。改良後の2140と呼ばれるクルマで、英国へは正式導入されなかった。改良前と違う部分は、前後の灯火類の形状とフロントグリル程度だ。

スワンの夫、ビルがこの1500を大切に維持している。彼によれば英国のディーラーは、ロシアで許されても英国では許容されない部分の修正や修理に、苦労していたという。エンジンヘッドのリビルドも珍しくなかったようだ。

英国でも歓迎されたソ連の大衆車

多くのディーラーが、保証内容の一部として不具合への対処に迫られた。モスクヴィッチの信頼性の低さが、販売に悪影響を与えたことは想像に難くない。

比較的小さなステアリングホイールの後ろに置かれた、アームチェアのようにゆったりとしたシートに座る。正直いって、デザインに魅力は感じないものの、メーターパネルに並ぶ計器類は充実している。

モスクヴィッチ1500(1969〜1976年/英国仕様)
モスクヴィッチ1500(1969〜1976年/英国仕様)

電流計と油温のメーターも付いている。直立し、わずかに湾曲したフロントガラス越しの視界は良好だ。

エンジンからは、熱意を感じさせるサウンドは聞こえてこない。状態の良くない英国コッツウォルズの道路を走らせると、甘ったるいサスペンションが盛大にボディを揺らす。シフトレバーのフィーリングにも、褒める場所はないようだ。

50年前の基準で考えても、ソ連時代の3台には指摘せざるを得ない弱点がいくつも見えてくる。動的能力には、鈍重という言葉を当てはめたくなる。

しかし、クルマが狙っていた本来の目的には、英国でも合致できていた。飾ることなく、頑丈で安価で、整備の回数もどちらかといえば、少なく済んだ。中古車しか選べないような家庭にも、新車を買う喜びを提供できていた。

クルマを手に入れることに、今以上の喜びがあったであろう1970年代。ソ連の大衆車は英国人にも歓迎され、幸せを与えていたのだ。

記事に関わった人々

  • 執筆

    サイモン・ハックナル

    Simon Hucknall

    英国編集部ライター
  • 撮影

    オルガン・コーダル

    Olgun Kordal

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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