美声で吠えかかる マクラーレン765LTスパイダー 手なづけたい最新ロングテール

公開 : 2021.12.03 19:26

第一印象を覆す、意外なしなやかさ

スペイン北部のナバラ・サーキットで開催された試乗会は、初日に周辺の一般道と高速道路、2日目にサーキットを走行するというプログラムが組まれていた。

なお、今回の試乗会に参加したのはイギリス人を中心とするヨーロッパ系のジャーナリストばかりで、日本人は私ひとり。いや、日本に限らず、ヨーロッパ圏外から訪れたのは私ひとりだったといっても間違いではなさそうだった。

電動リトラクタブル・ハードトップは11秒でオープン、またはクローズの動作を完了。チタン製エグゾーストの快音を鼓膜に直接浴びて、オープンエアのドライブを楽しもう。
電動リトラクタブル・ハードトップは11秒でオープン、またはクローズの動作を完了。チタン製エグゾーストの快音を鼓膜に直接浴びて、オープンエアのドライブを楽しもう。

試乗初日、運転席に腰を下ろしてエンジンを始動させた瞬間、675LT600LTで経験したのと同じエンジンからのバイブレーションを感じた。これは、スタンダードなモデルよりもエンジンマウントを硬質にした結果である。

その背景には、エンジンの感触をよりダイレクトに味わって欲しいという思いと、大きな外乱が加わった際に起きるエンジンの無駄な動きを封じ込めてより正確なハンドリングを生み出そうとする技術的必然性がある。

これは快適性を多少諦めてでもドライビング・プレジャーを追求する姿勢の表れで、LTシリーズの真髄といって差し支えのないもの。

なるほど、675LTも600LTもベースモデルに比べると乗り心地はかなり硬めだったから、765LTもさぞかし足回りはハードなんだろうと覚悟を決めて走り出したのだが、予想に反して720S並みにサスペンションがしなやかにストロークしたものだから、私は度肝を抜かれることになった。

しかも、Pゼロ・トロフィーRというスパルタンなタイヤを履いているにもかかわらず、ハーシュネスは驚くほど軽く、こちらも720Sとほとんど差がない。

ようやく見つけた720Sとの違いは、わだちによって直進性が乱されがちなことくらいだった。

美声の主が、吠えかかる瞬間

いっぽうで、マクラーレンの伝統である豊富なステアリング・インフォメーションは健在。

しかも、低重心、高剛性、マスの集中化を図ったボディはすべての操作に対して俊敏に反応し、レーシングカーのごときレスポンスを示す。とはいえ、スタビリティは圧倒的に高いから、乗り始めた途端に深い安心感を味わえる。

雨まじりの公道から、ドライのサーキットまで、テストドライブは2日間に渡り行われた。ハーフウェットの直線路でスロットルを踏み込みと……。
雨まじりの公道から、ドライのサーキットまで、テストドライブは2日間に渡り行われた。ハーフウェットの直線路でスロットルを踏み込みと……。

この日は小雨が降ったり止んだりで路面はやや湿っていたが、それでも私はなんの躊躇もなく、見知らぬ道をひとり走り始めていた。

いや、720Sと明確に異なる点がもう1つあった。

それはチタン製エグゾーストシステムが奏でるエンジンサウンドで、これが何ともいえず切れ味が良く、惚れ惚れするような快音を響かせる。

その音色は高音域を主体としたもので、純度が高く、ターボエンジンとは思えない乾いたサウンドで私たちを楽しませてくれるのだ。

しかも、765LTスパイダーには開閉可能なリアウインドウが装備されているため、たとえルーフを閉じていてもV8エンジンの歌声をダイレクトに味わうことができる。これは、試乗当日のように小雨が舞い落ちているときにこそ、そのありがたみを感じる装備といえるだろう。

しかし、765psまで引き上げられたエンジンパワーは伊達ではない。

その感触を確認するため、見通しのいい直線路でフル加速を試してみたのだが、1速だけでなく、2速でも3速でも、トップエンドのパワーにリアタイヤのグリップが抗しきれなくなり、リアエンドがブルブルッと小刻みに揺れるような挙動を示した。

これにはファイナルギアが15%落とされた影響もあったはずだが、いくら路面がうっすらと湿っていたとはいえ、トラクション性能に優れるマクラーレン・ロードカーでこんなことを体験したのは初めて。

それまで従順そうに見えた765LTが、このときようやく牙を剥きだしたように私には感じられたのである。

記事に関わった人々

  • 執筆

    大谷達也

    Tatsuya Otani

    1961年生まれ。大学で工学を学んだのち、順調に電機メーカーの研究所に勤務するも、明確に説明できない理由により、某月刊自動車雑誌の編集部員へと転身。そこで20年を過ごした後、またもや明確に説明できない理由により退職し、フリーランスとなる。それから早10数年、いまも路頭に迷わずに済んでいるのは、慈悲深い関係者の皆さまの思し召しであると感謝の毎日を過ごしている。
  • 編集

    徳永徹

    Tetsu Tokunaga

    1975年生まれ。2013年にCLASSIC & SPORTS CAR日本版創刊号の製作に関わったあと、AUTOCAR JAPAN編集部に加わる。クルマ遊びは、新車購入よりも、格安中古車を手に入れ、パテ盛り、コンパウンド磨きで仕上げるのがモットー。ただし不器用。

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