クワトロの40年 前編 直5とEVを乗り比べ クワトロの本質を探る 今も色褪せぬオリジナルの走り

公開 : 2022.03.05 13:25

80年代の雰囲気満点なクワトロ

キャラの立ったクルマであっても、頑固な昔ながらのファンにいまどきの流儀を受け入れさせるのは難しい。どんなクルマでも楽しめるというわけではない。トリガー式のドアハンドルから5気筒特有の響きまで、元祖クワトロにはそれに乗ることをスペシャルな体験にする要素があるのだ。

その思いは、シートに収まり、真円を描く細いステアリングホイールを握るとますます強まる。茶色いベロアのシートも、1980年代らしさ満点の欠かせないアイテムだ。

ベロア生地もそのパターンも、いかにも80年代らしいクワトロのシート。
ベロア生地もそのパターンも、いかにも80年代らしいクワトロのシート。    LUC LACEY

キーを捻り、スロットルペダルを軽く踏んで燃料をピストンへと送り込んでからスターターモーターを回すと、回りはじめたエンジンはスムースなパタパタ音を立て、声高ではなくかすかに5気筒の特徴を伝えてくる。

回転を上げると、その独特なサウンドはキャビンへと染み渡ってくる。クワトロの流儀に反する騒々しさや粗野な感じはなく、それでいて十分に、ボンネットの下には興味をそそる物件が潜んでいることを教えてくれるのだ。それに加えて、KKKのブロワーが上げるターボチャージャーのホイッスルのような音が、5速MTをシフトアップするたびに聞こえてくる。

現代でも通用するオリジナル・クワトロの実力

いまになってみると、とんでもなく速いクルマだとは感じない。200ps/29.0kg−mの5気筒がマークする0−100km/h加速タイムは7.1秒に過ぎない。ただし、それを達成するのは驚くほど簡単だ。

古いクルマで現代の交通事情の中を走ると、しばしばこちらが格下になり、おまけに世の中が突如として恐ろしいほど慌ただしく時間に追われるものになってしまったような感覚に襲われるが、クワトロに乗っていればそんな浦島太郎状態に陥ることはない。

クワトロの3デフ式4WDは、革新的な設計だった。センターとリアの各デフは、コクピットから操作できるロック機構を備えている。
クワトロの3デフ式4WDは、革新的な設計だった。センターとリアの各デフは、コクピットから操作できるロック機構を備えている。    LUC LACEY

フレキシブルなトルクカーブと最小限のターボラグ、さらには1287kgしかない車両重量のおかげで、どう走らせてもみごとなまでに楽なのだ。新車当時はフェラーリ308GTBに肩を並べる加速性能を誇ったクワトロも、現代にあっては、もはやスーパーカーイーターとはいえない。しかし、高速道路やA級道路のペースをキープする以上の能力をまだまだ発揮してくれる。

デリケートにしてダイレクト

とはいえ、本領を発揮するのはB級道路だ。繊細なステアリングとバランスのいいハンドリングを見せてくれる。

比較的サイドウォールの厚い205/60R15タイヤを履いていること、そしてエンジン重量が前車軸のさらに前へはみ出していることを考えると、ターンインがこの上なくシャープと言えないのは驚くことではない。アペックスへ向かっていく動きはややリア優勢の感覚だ。後ろが沈み込んで、ほとんどのコントロールは後輪が担い、前輪は方向決めのみに働いている感じだ。

クワトロの走りに派手な演出はないが、間違いなく速く、ドライビングに熱中できるクルマだ。
クワトロの走りに派手な演出はないが、間違いなく速く、ドライビングに熱中できるクルマだ。    LUC LACEY

だからといって、不安定で予測しづらい感じだというわけではない。油圧パワーステアリングの狙いが的確に決まるフィールは、最新の操舵系が思い出すべきものだ。そこにあるクルマとの一体感は、ブレーキにも味わえる。フロントがベンチレーテッド、リアがソリッドのディスクは、クワトロをきっちり制動するばかりでなく、ドライバーへ余すことなくインフォメーションを伝えてくれる。

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