フェラーリ296 GTB試乗 V6で体現した新世代フェラーリ像

公開 : 2022.03.07 08:01

ナチュラルなアジリティ

国際試乗会の最初のメニューはスペイン・アンダルシア地方にあるモンテブロンコでのサーキット走行。

今回はフェラーリにしては珍しくカルガモ走行スタイルだったが、そのペースはおそろしいほど速く、2周目には160km/hを超える高速コーナーでオーバーステアが顔を出してしまうほどだった。

フェラーリ296 GTB
フェラーリ296 GTB

このとき、わたしは軽いカンターステアで危機を乗り切ったものの、おそらくはブレーキを用いたスタビリティコントロールも軽く介入していたはず(マネッティの設定はレースモード)。

でなければ、あれほどスムーズに態勢を立て直すのは難しかっただろう。

これを除けば、296 GTBは極めて扱いやすいキャラクターに仕上がっていた。

ドライブトレインはレスポンスが良好なうえに一直線に立ち上がる出力特性のためにドライバビリティは高く、しかも8500rpmのレヴリミットまで回してもスムーズさは失われない。

おまけに等間隔爆発の120度V6が生み出すサウンドは絹のように滑らかで、わたしの知る限り、フェラーリ製ターボエンジンとしては最上の出来映えだった。

ハンドリングのレスポンスもシャープだが、ショートホイールベースや低重心化が生み出すアジリティがごく自然なうえ、ステアリングインフォメーションも豊富なため、走り始めから自信を持ってドライブできた。

もっとも、これはトラクションコントロールが利いている状態の話であって、トラクションコントロールが作動しないCTオフを低速コーナーで試したところ、脱出でいとも簡単に大オーバーステアに転じ、システム出力820psの実力を思い知らされることになった。

「新たなフェラーリ」を体現

試乗会の最後のメニューは、アンダルシアの美しいワインディングロードを200km近くも駆け巡るというもの。

ここでもレスポンスのいいパワートレインとハンドリングを満喫し、296 GTBのナチュラルなアジリティを堪能できた。

フェラーリ296 GTB
フェラーリ296 GTB

ここ10年ほど、どのメーカーもやたらとアジリティを標榜しているが、そのほとんどは、微舵応答だけを極端にシャープにすることで生み出した「人工的なアジリティ」だったような気がする。

この場合、車速や舵角などによって「アジリティの度合い」が変化するため、心ゆくまでコーナリングを楽しむことなど不可能。

わたしは、この種のアジリティは「百害あって一利なし」だと捉えている。

しかし、296 GTBのハンドリングは、それとはまったくの別物だ。

どんな状況でも一定の反応を示すため、ドライバーとしては先が読みやすく、そして安心してコーナーを攻めることができる。

正直にいえば、サーキットと違ってワインディングロードでは1度もタイヤのグリップ限界に迫ることはなかったが、それでもコーナリングを満喫できたのは、296 GTBの「天然由来なアジリティ」のおかげだったと信じている。

それにしても296 GTBのドライビングダイナミクスは実に奥深く、また完成度が高い。

ハイブリッド・パワートレインとショートホイールベースでスーパースポーツカーのまったく新しい世界を切り拓いた296 GTBは、エンジンがV6であってもホンモノのフェラーリだと断言できる。

いや、V6エンジンだからこそ新たなフェラーリ像を作り上げることができたといっても過言ではないだろう。

記事に関わった人々

  • 執筆

    大谷達也

    Tatsuya Otani

    1961年生まれ。大学で工学を学んだのち、順調に電機メーカーの研究所に勤務するも、明確に説明できない理由により、某月刊自動車雑誌の編集部員へと転身。そこで20年を過ごした後、またもや明確に説明できない理由により退職し、フリーランスとなる。それから早10数年、いまも路頭に迷わずに済んでいるのは、慈悲深い関係者の皆さまの思し召しであると感謝の毎日を過ごしている。

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