空冷の水平対向12気筒+伝説のガルフカラー ポルシェ917K ル・マン連勝マシンに迫る 前編

公開 : 2022.05.07 07:05

ポルシェのル・マン常勝の礎を気づいたといえる、917。1970年と1971年の連勝当時を、英国編集部が振り返ります。

空冷の水平対向12気筒エンジン

ル・マン24時間レースで、通算19度の総合優勝を掴み取っているポルシェ。一時撤退していたが、新しく設定されたLMDh(ル・マン・デイトナ・ハイブリッド)プロトタイプ・カテゴリーで、2023年にサルテ・サーキットへ復帰するという。

そんなポルシェの華々しい活躍をさかのぼると、1969年の象徴的なレーシングカーへ辿り着く。空冷の水平対向12気筒エンジンを搭載し、他を寄せ付けない強さを披露した917だ。

ポルシェ917K(1971年)
ポルシェ917K(1971年)

空気力学の研究はされていたが、まだ未熟だった50年以上も昔に、サルテ・サーキットのユノディエール・ストレートで396km/hという驚異的な速度へ加速することが可能だった。当時最高のドライバーであっても、手懐けることに苦労したという。

ポルシェ917は、デビュー翌年の1970年に続き、1971年のル・マンでも優勝。レギュレーションが変更されると、北米で開催されていたカナディアン-アメリカン・チャレンジカップ、通称カンナムへ活躍の場を求めた。

1970年6月14日、ポルシェ初となるル・マン総合優勝を果たしたのは、リチャード・アトウッド氏とハンス・ヘルマン氏という敏腕ドライバーだった。お2人ともご健在だが、本日はアトウッドへお越しいただいた。

とても陽気な性格の彼は、80歳を過ぎた。取材場所は、カリフォルニア州サンフランシスコの北、ソノマ・レースウェイ。伝説のマシン、ポルシェ917Kと当時の優勝ドライバーという、夢のような組み合わせが実現した。

他に例がないほど特別でタイトな雰囲気

薄く軽いグラスファイバー製のドアが、大きく開く。開口部はルーフ側まで回り込み、前方の上下にヒンジが付いていて、白鳥が翼を広げたように優雅だ。

低く引き締まったマシンのコクピットへ、筆者の身体を沈める。目の前の様子を、ひと通り観察する。他に例がないほど特別な雰囲気を漂わせている。緊張を隠せない。

ポルシェ917K(1971年)
ポルシェ917K(1971年)

コンパクトなドライバーズシートの隣に、ありえないほど小さな助手席が据えられている。2シーターであること、という参戦規定を満たすために。

運転姿勢は、殆ど仰向けの状態。ペダルに向かって足を伸ばす。つま先がヘッドライトのすぐ横へ届く。917のボディは、空気を後方へ可能な限り滑らかに受け流すよう、スリム。身長185cmの筆者には、不安になるほど車内がタイトだ。

空間を稼ぐため、グラスファイバー製のシートからは、ソフトパッドが剥がされている。座り心地は悪く、サポート性も殆どない。それでも、頭上の余裕は1cm足らず。やむをえず、今回の試乗はヘルメットを装着しないことにした。

フロントガラスは、金魚鉢のようにドーム型。そのすぐ両脇に、フロントフェンダーの峰が膨らんでいる。ドライバーの肩の位置より高い。

無駄の一切ない3スポーク・ステアリングホイールの大きさは、小径で完璧。警告灯には、それぞれテープライターでラベリングしてある。ドイツ語で。ワイパーは「Wischer」だ。

記事に関わった人々

  • 執筆

    ベン・バリー

    Ben Barry

    英国編集部ライター
  • 撮影

    マーク・アーバノ

    Marc Urbano

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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