最上級コンバーチブル ロールス・ロイス・シルバークラウドIII キャデラック・シリーズ62 後編

公開 : 2022.06.26 07:06

大量消費が許された1960年代。その頃の米英を代表する最上級コンバーチブルを、英国編集部がご紹介します。

慎ましやかなロールス 大胆なキャディ

1960年当時、ロールス・ロイス・シルバークラウド・アダプテーション・ドロップヘッド・クーペの英国価格は、7601ポンド。キャデラック・シリーズ62 2ドア・コンバーチブルの3倍という金額だった。

今回ご紹介する1962年式シルバークラウドIIIのアダプテーションは、1シーズンのみの製造で極めて珍しい。丸目4灯のヘッドライトが特徴で、37台しか作られていない。ベントレーS3としては、4台だけだった。

ブルーのロールス・ロイス・シルバークラウドIII アダプテーション・ドロップヘッド・クーペと、シルバーのキャデラック・シリーズ62 2ドア・コンバーチブル
ブルーのロールス・ロイス・シルバークラウドIII アダプテーション・ドロップヘッド・クーペと、シルバーのキャデラック・シリーズ62 2ドア・コンバーチブル

このモデルは、究極のシルバークラウドとして評価されることも多い。近年の取引価格は、100万ポンド(約1億6300万円)に迫る例もあるほど。

ロールス・ロイスとキャデラック、2台のコンバーチブルを並べてみると、シルバークラウドよりシリーズ62の方が350mmも長い。大胆なスタイリングは、エレガントさを漂わせる。

フィンの付いたキャデラックの巨大なサイズが、アメリカで一般的になった背景にも興味を抱かずにはいられない。2022年に見ると、まるで別の世界の乗り物のようだ。

対するロールス・ロイスは、どこか慎ましやか。プロポーションもディティールも美しい。トランクは遥かに短く、キャビンもひと回りコンパクト。

キャデラックの重そうなフロントグリルや肉厚なフロントバンパーを眺めていると、その手間数を想像してしまう。巨大なボディパネルも含めて、製造のために準備された工作機械や成形型は、膨大なものだっただろう。

ドアを閉めると、心強い音を立てて噛み合う。ボディは頑丈そうだ。

対象的な雰囲気と仕立てのインテリア

ボンネットの開き方や、その内側に収まる鋳鉄製エンジンの見た目などは、いかにも工業的。細部に至るまで気が配られたロールス・ロイスとは違う。HJミュリナー社が1台へ数週間かけていたのに対し、キャデラックの工場は数日で仕上げていた。

シルバークラウドのインテリアは、落ち着いたウッドパネルと、シンプルにメーターの並んだダッシュボードが英国車的。アイボリーのセパレート・シートが優しい雰囲気だ。

ロールス・ロイス・シルバークラウドIII アダプテーション・ドロップヘッド・クーペ(1962年/英国仕様)
ロールス・ロイス・シルバークラウドIII アダプテーション・ドロップヘッド・クーペ(1962年/英国仕様)

キャデラックの水平貴重で、真っ赤な内装とは対照的でもある。レザー張りのベンチシートは電動で調整できる。ステアリングホイールのポジションは、こちらの方が好ましい。スイッチ類も、より現代モデルに近い。

2台ともに、加速の勢いに目立った特徴はない。不足ない動力性能で、活発にスピードを乗せる。同乗者を驚かせることもないだろう。ギア比はロングで、4速に入れれば160km/h以上の速度域でクルージングできそうだ。

特に変速が滑らかなのは、キャデラック。ほぼ意識することはない。ロールス・ロイスが製造した、基本的には同じ4速ATも劣らず上質。

一般的に、サルーンと比べると洗練性で劣るコンバーチブルだが、シャシーとボディが別々のセパレート構造だけあって、どちらも構造的には有利。路面変化でボディがきしむこともなく、タイヤやドライブトレインからのノイズも遮断されている。

記事に関わった人々

  • 執筆

    マーティン・バックリー

    Martin Buckley

    英国編集部ライター
  • 撮影

    リュク・レーシー

    Luc Lacey

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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