ザガートの斬新デザイン ランチア・フルビア・スポルト アルファ・ロメオ・ジュニア Z 前編

公開 : 2022.12.25 07:05

1960年代に生まれた大胆なコーチビルド・ボディの上級クーペ。少量生産の貴重な2台を、英国編集部がご紹介します。

賛否を呼んだ前衛的なスタイリング

グレートブリテン島の南東部、エセックス州の中央にコルチェスターという町がある。近年は、コンテンポラリー・アートが盛んなことで英国では知られた場所だ。

ファーストサイトという名のアートギャラリーは鉄骨造の半円形の建物で、外壁が銅とアルミニウムの合金で覆われている。歴史ある市街地に姿を表した斬新なファサードは物議を醸したものの、魅惑的な佇まいだと思う。

シルバーのランチア・フルビア・スポルトと、レッドのアルファ・ロメオ・ジュニア・ザガート
シルバーのランチアフルビア・スポルトと、レッドのアルファ・ロメオジュニア・ザガート

今回ご紹介する、ランチア・フルビア・スポルト 1600とアルファ・ロメオ・ジュニア 1600 ザガートというスポーツカーを並べるのに、ピッタリな場所でもある。この2台も、そのスタイリングが賛否を呼んだ。現在でも、受け止め方には差があるはず。

モダンアートの作品ではないものの、実際、町ゆく人々は多様な表情を浮かべる。ボンネットのエンブレムを確認しても、すぐには飲み込めない様子。「今まで見たことがないですね」。ボソリとつぶやく人もいる。

前衛的な見た目を好きだという人は、半分くらいのようだ。食パンに塗るマーマイトを好む人と、同程度の割合かもしれない。

撮影する手を止めて、フォトグラファーのジェームズ・マンが自身の印象を整理する。「美しいけれど、醜い」。イタリアで最も奇抜なスタイリングを生み出すカロッツエリア、ザガート社が約60年前に仕上げたボディは、今も見る人へ強い印象を与える。

航空機の軽さや強さを自動車のボディへ

1919年、航空機の軽さや強さを自動車のボディへ応用しようと考えた、ウーゴ・ザガート氏が創業したザガート社は、当初からデザインの最前線にあった。高い独自性で他とは一線を画してきた。

アヴァンギャルドな同社を、世界的な自動車メーカーが頼ってきた。ランチアもその1社。1960年代にはヴィットリオ・ヤーノ氏が手掛けた小型車、アッピアの後継モデルとして誕生したフルビアの、上級モデル展開が託された。

ランチア・フルビア・スポルト(1965〜1973年/英国仕様)
ランチア・フルビア・スポルト(1965〜1973年/英国仕様)

四角いボディで前輪駆動の4ドアサルーン、フルビア・ベルリーナは、1963年の発売。4灯の丸目ヘッドライトとシャープなラインのボディは、自社でスタイリングが描かれた。兄弟モデルとして、ホイールベースが約150mm短いクーペも追加された。

ベルリーナとクーペは、基本的なメカニズムを共有。1.2L狭角V型4気筒エンジンと、変速しやすいオールシンクロの4速MTという魅力的なドライブトレインを、サブフレームに載せていた。

サスペンションは、フロントが横向きリーフスプリングの独立懸架式。ディスクブレーキも奢られ、ランチアらしい巧妙な設計だったといっていい。

当時のイタリアでは、大排気量モデルに著しく高額な税金が掛けられていた。富裕層向けに、小排気量モデルへ特別なコーチビルド・ボディを架装する例も少なくなかった。

ランチアも市場の要望へ応えるべく、ザガート社による個性的なボディを採用。フルビア・クーペへ大幅に手を加えた、フルビア・スポルトが1965年にリリースされた。

記事に関わった人々

  • 執筆

    AUTOCAR UK

    Autocar UK

    世界最古の自動車雑誌「Autocar」(1895年創刊)の英国版。
  • 撮影

    ジェームズ・マン

    James Mann

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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