モータースポーツへ接近したのか メルセデスAMG SL 55 ポルシェ911 カレラGTS 比較試乗 後編

公開 : 2023.02.04 09:46

切れ味が悪く少し単調に思える4.0L V8

対するSL 55は、スポーツカーと呼ぶには少々大柄だろう。ラインを確実に辿れるものの、自在に姿勢を調整していける身軽さはない。コーナーでは、強力なブレーキへ頼りがちになる。

メルセデス・ベンツのSLは、以前からドライバーが求めれば容易に展開できる、オーバーステアが大きな武器だった。ところが、最新のSL 55では少々様子が異なっている。

ポルシェ911 カレラGTS カブリオレ(英国仕様)
ポルシェ911 カレラGTS カブリオレ(英国仕様)

アクセルペダルの加減でコーナリングラインを絞っていくことは可能だが、従来ほど自然な印象ではない。アクセルオフでノーズが内側に食い込んでいくこともない。どちらかといえば、必至に安定させようとしている印象がある。

疑いなく、超高速なグランドツアラーではある。だが、モータースポーツ直系のAMGらしさとはいえないかもしれない。911 GTSは高精度で理解しやすく、一緒にダンスするように操れる。幸福感で勝る。

パワートレインにもそのモヤモヤが続く。AMGのティモ・ノードハイム氏が組み立てた4.0L V8エンジンは素晴らしいが、GTS仕様のエグゾーストを備えた、ポルシェの3.0L 水平対向6気筒ツインターボと比較すると、やや切れ味が悪く単調に思えた。

濡れた路面に後輪駆動だから、480psを解き放つことは簡単ではないものの、感覚的には濃厚。機械的なサウンドも心へ響く。アクセルレスポンスは鋭く、電光石火な変速が爽快さを一層強める。

説得力があるSL 55の完成度だが・・

ポルシェは、GTグレード以外の911に自然吸気エンジンを搭載しないことを決め、われわれを落胆させた時期もあった。しかし、気付けば息を呑むような高みに磨かれていた。M177型ユニットも傑作といえるが、3.0Lフラット6も出色だ。

パワーでも僅かに上回り、動力性能は素晴らしいのヒトコト。ワインディングが濡れていたとしても、ポルシェの方が速く楽しい。

レッドのポルシェ911 カレラGTS カブリオレとシルバーのメルセデスAMG SL 55 4マティック+ プレミアム・プラス
レッドのポルシェ911 カレラGTS カブリオレとシルバーのメルセデスAMG SL 55 4マティック+ プレミアム・プラス

さて、有能な2台を乗り比べてみた今回の企画だが、SLはグランドツアラーからスポーツカーへ軸足をシフトしたのだろうか。911のグランドツアラーぶり以上に。

メルセデスAMG SL 55の完成度には、説得力があることは間違いない。それでも、ポルシェ911 GTSにも1日中運転していたいと思える心地良さと輝きが備わっている。最後に運転した高速道路でも、魅力では劣らないように感じた。

新しいSL 55のポテンシャルは高い。しかし、AMGが改良を加えられる余地は残されている。今後に控えた2代目AMG GTに並ぶ、操縦特性を与えることも不可能ではないだろう。その時には、フロントのドライブシャフトが省かれるかもしれない。

記事に関わった人々

  • 執筆

    リチャード・レーン

    Richard Lane

    英国編集部ライター
  • 撮影

    マックス・エドレストン

    Max Edleston

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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